宮城県山元町で津波に被災した写真を持ち主に戻す「思い出サルベージプロジェクト」と、ダメージが酷く処分される運命にあった写真を世界各国で展示し寄付金を集める「LOST&FOUNDプロジェクト」。東日本大震災の後、この2つのプロジェクトに関わった写真家・高橋宗正さんが、写真集『津波、写真、それから』(赤々舎)の中で綴った日記を、5回にわたり全文掲載していきます。
一度見失った「人が写真を撮る意味」を、一人の写真家が再び見出すまでの記録です。
協力:赤々舎
【以下からの続きです】
「それからの日記」1/5: 2011.3.11-2011.5.5
「それからの日記」2/5: 2011.5.5-2011.7.24
「それからの日記」3/5: 2011.7-2012.3.25
展示3
2012.4.2-27
アパチャー・ファウンデーション
ニューヨーク、アメリカ合衆国
アパチャーでの展示は、日本で写真集の編集や写真家とのコラボイベントを数多く手がけるアイヴァンさんの紹介で実現することになった。日本とアメリカは写真サイズの規格が違うから、アメリカの家庭でよく見かけるようにフォトフレームに入れて展示をした方がもっと伝わりやすいのではないか、との意見をもらったので、ロサンゼルスのリサイクルショップをいくつもまわってフォトフレームを買い集めた。あるお店でそこにあったフォトフレームをほぼ全部レジに持っていくと、店員のおじいさんに「こんなに何に使うんだ?」と聞かれた。こういうプロジェクトのために日本から来てるんだと説明すると、「お前らいいことやってるな! 全部1ドルにしてやるよ」と言って安くしてくれた。日本だとレジの人が勝手に値段を変えるなんてことはあり得ないので、アメリカっておもしろい国だなあと思った。ちなみにそのとき、隣にいたおばあさんは「私なら全部タダにしてあげるのに、こいつ、せこいのよ」なんて冗談を言っていた。ニューヨークでの滞在中は、ラッコさんの実家に泊めてもらった。窓際にはフォトフレームに入った家族の記念写真が並べてあって、清水家の歴史を眺めることができた。日本の家ではそういうふうに写真を並べているのを見たことがなかったけれど、これがアメリカンな家庭か、こういうのもいいもんだなあと思った。日本で部屋に飾られている写真といえば遺影だ。
展示4
2012.6.5-7.1
現代写真センター
メルボルン、オーストラリア
メルボルンでの展示は写真家の旗手浩さんの友達で、キュレーターでありアーティストでもあるクリスチャンさんが企画をしてくれた。旗手さんは一緒に飲みに行ったりする兄ちゃん的存在の先輩写真家で、自費でオーストラリアまで同行し通訳もやってくれた。2週間ほどメルボルンの近くに住むクリスチャンの両親の家に泊めてもらっていたのだけど、クリスチャンはよく酔っぱらってパパと喧嘩をしていた。二人を引き離し、旗手さんはクリスチャンと話し、ぼくはパパの話しを聞いていたのだけど、英語のわからないぼくは半分も理解できなかった。「ムネマサ、理解してるか?」「30%!」「オーケー」というやり取りが滞在中何度かあった。またある日の夜、みんなでワインを飲んでいるとパパが箱を出してきた。開けると中には、家族の写真がたくさん入っていた。クリスチャンの小さい頃の写真や若い頃のパパやママの写真もあって、それを見ながらいろんな話をした。写真を中心に和気あいあいとした夜だった、なんだかんだで仲のいいステキな家族だった。クリスチャンの反抗期が早く終わることを祈る。
展示5
2012.7.2-8.31
フォトギャラリーインターナショナル(PGI)
東京、日本
PGIは日本の大御所の写真家が数多く所属する伝統のあるギャラリーで、ニューヨークでの展示を見たディレクターの高橋朗さんに声をかけてもらい展示をすることになった。今までで一番狭い空間で、両面から写真に挟まれることで、見る人が否応なく写真と対峙させられるような展示になった。展示を見た川田喜久治(※)さんから、プロジェクトの写真を複写して作品にしたいとの提案をいただいた。尊敬する大先輩とコラボというとおこがましいが、応援してもらえたことはとても励みになった。運営費にしてくれと少し寄付ももらってしまった。
※東松照明、細江英公などと共にVIVOを結成した日本の重要な写真家。
展示6
2012.7.28-29
東川町国際写真フェスティバル
北海道、日本
東川町国際写真フェスティバルは、年に一回国内や海外から多くの写真関係者が集まるお祭りで、運営に関わる石毛大介さんの紹介で展示をすることになった。ここでは運営のボランティアとしていろんなところから写真を学ぶ若者がやってきていて、彼らの作品をいろいろと見せてもらいながら、ぼくも自分の作品づくりも頑張ってやらないとこのままボランティアマンになってしまうなあと思った。
展示7
2012.9.12-10.27
インターセクションフォーザアーツ
サンフランシスコ、アメリカ合衆国
サンフランシスコの展示は、ニューヨークと同じくアイヴァンさんの紹介でインターセクションフォーザアーツのケビンさんが企画運営をしてくれた。ここではプロジェクトの展示とあわせて、8人の地元のアーティストにこの被災した写真のイメージと情報を提供し、彼らの解釈で作ってもらった作品も展示した。正直なところ、会ったことのない人たちからどんな作品が出てくるのか不安もあったけれど、作品を目にすると真摯に向き合ってくれたことがよくわかって安心した。みんなステキな人たちだった。もっと英語ができればいろいろ話せたのになあと思う。そしてサンフランシスコでは重要ミッションが課せられた。ケビンからオープニングで短いスピーチをしてくれないかと頼まれたのだ。日本語を英語に翻訳してもらって何度も読む練習をしたのだが、本番では英語への苦手意識が炸裂し声も手も震え、散々だった。ビールでごまかせる緊張じゃなかった。
展示8
2012.9.20-10.28
ローマ現代アート美術館
ローマ、イタリア
ローマでは、ニューヨークのジェイクさんの友達でキュレーターをやっているアナリッサさんが、年に一度の写真祭FOTOGRAFIAで展示を企画してくれた。展示する場所としては、特別にコンテナを準備してくれていた。それは津波で流されたコンテナがカナダに流れ着き、その中から見つかったハーレーダビッドソンをダビッドソン本社が無償で修理することになったというニュースがあったからだった。偶然ではあるが、そのバイクは山元町から流されたものだった。そのコンテナで一緒に展示作業をしてくれた人に、星さんが質問したことがあった。「なんでこんなに手間をかけてぼくらに協力してくれるの?」答えはとてもシンプルだった。「ハートだよ」
[5/5に続きます](毎週月曜日更新予定)
このコンテンツは、写真集『津波、写真、それから』(赤々舎)の中で綴られている高橋宗正さんの日記を、
赤々舎の協力を得て、全5回に分け全文掲載しているものです。
高橋宗正『津波、写真、それから –LOST&FOUND PROJECT』
2,600円+税 | 344×247mm | 152頁 | 並製 | 全編日英併記
アートディレクション:寄藤文平
2014年2月発売 赤々舎
[Amazon / 赤々舎]
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