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冨田健太郎 斜めから見た海外出版トピックス

冨田健太郎 斜めから見た海外出版トピックス
第33回 独立系書店の新たな支援サイト

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 某出版社にて、翻訳書編集、法務をへて翻訳権輸出に関わる冨田健太郎が、毎月気になる海外の出版事情を紹介する「斜めから見た海外出版トピックス」。今回はコロナウイルスによる書店への影響と、それに伴ってユーザーを増やしているという、独立系書店を経済的にサポートするwebショップ「Bookshop.org」について、レポートします。

第33回 独立系書店の新たな支援サイト

 2020年4月末現在、先の見えないコロナウィルス禍。
 欧米ではロックダウンに踏みきった地域も多く、出版ビジネスもかつてない波に呑まれています。
 DOTPLACEでも、清水玲奈氏が英国のリポートをされています。

 現地の様子を読むと、こんな状況下でも知恵を発揮しつづける関係者のさまざまな試みには勇気づけられます。

 米国でも書店は閉店を余儀なくされ、きびしい環境にありますが、今回は、そのなかで注目をあびているサイト「Bookshop.org」(以下〈ブックショップ〉と記します)の活動を見たいと思います。

▼米国書店はいま

 まずは、現在の米国の状況をざっと見ておきましょう。

 当初は、人が家にこもるので本の需要が増える、と言われ、客が増えているという話もありましたが、その後、多くの州が商業活動を制限。書店も閉めざるを得なくなり、様相が変わってしまいました。

 出版業界誌パブリッシャーズ・ウィークリイが、ニューヨークやカリフォルニア等19州の書店を対象に、3月の数字について行なった調査によると、3月の売上は、昨年同月比−9.4%、2月と比較しても−6.5%という数字が出ています。
 8割の書店が従業員に一時帰休を強いているとのことでした。

(独立系書店への調査に、コロナウィルスの損害を見る)

 売上全体は下がったわけですが、しかし、閉店の影響を考えると、下げ幅がこの程度でおさまった、という評価です。
 外出禁止が強まるなかで、自宅にこもる前に本を買っておこうという需要を喚起した、というのですね。
 じっさい、ひと握りながら記録的な売上をあげた店もあったそうです。

 店を閉めて、どうやって本を売っているかというと、まずは注文販売。
 メールや電話で注文を受けて配送する(場合によっては店員が玄関まで届けたり)といった対応で、これは従来から行なわれてきたサーヴィスです。
 アマゾンが衣料品や生活必需品の配送を優先し、必然的に本の配送が遅れる状況になったため、読者の目がより近所の書店に向いたこともあったでしょう。
 あるいは、ギフト・カード販売も好調で、なかには売上が1500%増を記録した店もあったそうです。

 もうひとつの大きなルートが、オンライン・セールスです。
 米国では、書店協会が以前からシステム構築を支援をしてきていたため、独自の販売サイトを持っている書店もけっこうあります。
 くわえて、中小書店の支えになると注目されているのが、新しいサイト〈ブックショップ〉なのです。

▼〈ブックショップ〉とは

 創立者アンディ・ハンターは、雑誌編集や文学ウェブ媒体(https://lithub.com/)などで活躍し、出版社経営にもたずさわってきた人物。
 そんなハンターが、米国書店協会(ABA)と出版流通のイングラムの支援を受けて、今年2020年1月に立ちあげたプラットフォームが〈ブックショップ〉です。もともとABAの独立系書店支援部門の販売サイト、流通面はイングラムが請け負い、独自に仕入れ販売を行うショッピングサイトであり、在庫管理や発送といった流通機能はイングラムが行うという仕組みを採用しています。

 スタート前の19年11月に、ハンターがABAに寄せたあいさつ文では、自分たちのミッションは「みなさんのような独立系書店を経済的にサポートすること」だと明確に述べています。

(Bookshop.org創立者アンディ・ハンターからの書簡)

 ここ数年、米国の独立系書店は元気がよいといわれてきました。
 しかしハンターは、書籍売上でアマゾンが占める割合が、2015年の37.7%から、19年には50%をこえるまでに成長しているというデータを指摘します。
 背景にあるのは、全体におけるeコマースのシェアが、前年比14%ずつのびているという事実。
 そのいっぽうで、書店のなかで独自販売サイトを持ち、年5ケタの売上(円換算で約100万円単位)に達しているのは150店、6ケタになると25店で、つまり大半の書店はネットでじゅうぶんな売上を得られてはいないということになります。
 ハンターは、これでは本が売れてもアマゾンだけがうるおうことになりかねない、という危機感を持ちます。

 本は生活の、そして人生の中心であり、人は本をとおして世界を知り、自分を発見する。そのような文化の中心が書店であり、書店を守るためにはエコシステムを強化しなければならない。そして、アマゾンにかわる、社会的意識の高い読者が集う場を作る必要がある——というのが、ハンターの主張です。

〈ブックショップ〉が目指すのは、以下の3点。

 1)著者や出版社やメディアや読者がもとめているような、だれもが使えて普遍的な書店支援サイトを作る。

これはわかりやすいですね。

2)アフィリエイトでウェブ・ビジネスは激変し、広告収入が減少しているメディアにとっては、アフィリエイトの収益が大きくなっているが、出版に関しては、ほぼアマゾン一択になっている。そこで、希望小売価格の10%をアフィリエイトに、10%を書店に支払う。アフィリエイトのパートナーには、NYタイムズ、コンデナスト社、出版社のビッグ5にLiterary Hubといった有力サイトなどを選び、数千規模へ増やしていく。

ハンターによると、アマゾンのアフィリエイトに対するコミッションは4.5%なので、〈ブックショップ〉の10%はきわめて有利な数字です。したがって、版元やメディアにとっても、自社の記事を見た読者がその本を買う場合、アマゾンではなく〈ブックショップ〉に誘導するほうが利益は大きくなるわけです。

3)書店の側にウェブの知識や経済的余裕や組織内の資源がなくても、SNSやeメールや自社サイトをとおして簡単に本を売ることができる支援の枠組を作る。

オンラインで本を買う客がアマゾンへ行ってしまうのは、なにしろ使いやすいから。その流れを地元書店にもどすには、ユーザーにとってだけでなく、書店の側にとってもあつかいやすくなければならない、ということでしょう。

▼〈ブックショップ〉の仕組み

 では、具体的にどういう仕組みなのか、わかる範囲でおさえておきます。

 まず、参加を希望する書店は〈ブックショップ〉にアフィリエイト登録をします(この登録は、書店だけでなく、著者や出版社など、だれでもできます)。
〈ブックショップ〉で本が売れた場合、配分は以下のようになるようです。

・小売価格の50%は、出版社の取り分。
・10%は、アフィリエイト先に。
・10%は別枠でプールされ、累積して、半年に一度、参加している独立系書店に均等に分配される(←これが書店支援のための大きなアイディアです)。
・参加している独立系書店のセールスによって〈ブックショップ〉で本が売れた場合、アフィリエイト・フィーの10%ではなく、25%のコミッションが支払われる。書店の推薦リスト等によって売れた場合も25%。
・〈ブックショップ〉の取り分は5~10%で、残りは流通をになうイングラムへ。

 ということは、

  50%:出版社
  10%:アフィリエイト
  10%:参加書店への配分金
  20%:流通業者
  10%:〈ブックショップ〉

 ただし、参加している書店の貢献による売上の場合は、

  50%:出版社
  25%:参加書店
  20%:流通業者
  5%:〈ブックショップ〉

ということになるようです(流通と〈ブックショップ〉の配分は推測ですが)。

 肝になるプール金の分配ですが、ハンターの試算では、たとえば〈ブックショップ〉が半年で400万ドル売りあげ、パートナーが200店あったとすれば、それぞれに2000ドルが配分されることになります。
 ハンターの目論見は大きく、アマゾンの書籍の年間売上は31億ドルだそうですから、もしその1%が〈ブックショップ〉に流れれば、それで3100万ドル。
 これだけで、相当な金額が書店に行きわたる計算になります。

▼〈ブックショップ〉への反応

〈ブックショップ〉は、多くの書店から好意的に迎えられました。
 アマゾンと対抗できるのであればなんでも歓迎、という書店もあるようです。

 いっぽう、すこし触れたように、独立系書店のなかでも自前の販売サイトを運営して成功しているところもあり、そのような店舗にとっては、〈ブックショップ〉の試みは逆に売上を阻害する可能性も考えられます。
 ハンターは、彼らから客を奪うつもりはまったくなく、ともかくアマゾンから本を買っているユーザーを独立系書店にふりむかせたいのだ、といいます。

 また、〈ブックショップ〉の枠組自体に懐疑的な書店もあったようです。
 けっきょく客が気にするのは価格であって、安く提供する大手に対抗できるのだろうか、という懸念です。アマゾンが国内の中小書店を倒してきたのも値段が安いからであって、そのまえにはウォルマートでもおなじことが起きた、というわけです。
 この点については、ハンターは有効な答えを出してはいないようです。
 彼は、慣れ親しんできた本に関わる文化を守るための、持続可能なモデルを作ろうとしているのだ、といいます。
 そのために〈ブックショップ〉には、読者が自分の居住地の近所の書店を簡単に検索できたり、店のニューズレターの登録ができたりといったサーヴィスが組みこまれていくことになります。
 あるいは、〈ブックショップ〉が集めた顧客データを参加する書店へ提供する仕組みにもなっているそうです。顧客は〈ブックショップ〉につくのではなく、地元の書店につくからだ、というのがハンターの理屈です。

(アマゾンにかわる独立系の選択肢か)

▼〈ブックショップ〉、スタート

 こうして、〈ブックショップ〉は20年1月にスタートしました。
 最初の1週間の売上は3万ドル。
 しかし、今回のコロナウィルスの影響で人びとは書店へ行くことができなくなり、そのためもあって、3月なかばにはセールスは45万ドルに達したといいます。
 3月ひと月を見ると、前月比2000%という伸び。
 いまでは1日8000点を売り、購入者の1/4はリピーターだそうで、固定客がついてきたこともわかります。

 さまざまなメディアが〈ブックショップ〉に参加し、出版社のなかではビッグ5のひとつ、サイモン&シュスターがいち早く〈ブックショップ〉との提携を発表。自社サイトに〈ブックショップ〉へ飛ぶ購入ボタンを設置しました。

(コロナウィルスのパンデミックで閉店中の独立系書店を救済する新たなオンライン・ストア)

 また、著者や読書好きも次々〈ブックショップ〉に加わり、自分の著書だけでなく、おすすめの本やさまざまなリストを掲載しています。
〈ブックショップ〉は、本についての情報提供の場としても、急速に受け入れられているようです。

(独立系書店をサポートする簡単な道)

 いっぽうで、問題も見えてきました。
 先にあげたパブリッシャーズ・ウィークリイによる書店への調査でも、マージンの減少が指摘されていました。
 店頭で直接買ってもらう場合にくらべ、〈ブックショップ〉経由だと、書店の取り分は約25%減る計算だといいます。

 さらに、従来の販売だと、店頭価格そのままが現金として店に入ったわけですが、〈ブックショップ〉を通すと、書店の取り分だけが時間をおいて支払われてくるため、キャッシュフローに大きく影響するのです。
 とくに、いま苦境にある書店にとっては、この差がひじょうにきびしくのしかかってきます。

 くわえて、本来は書店から買ってくれた客が、より簡便な〈ブックショップ〉に流れているという懸念も出されています。
「街の書店を救う」といいながら、じっさいには客を奪ってネットショッピングに誘導し、店側のマージンも減らして、結果的に書店の経営を苦しめているのではないか、というのです。

 こういった問題点についてハンターは、〈ブックショップ〉はあくまで書店のサポートなのだ、といいます。
 顧客が店舗へもどってくるときまでの一時しのぎに使ってもらえばそれでもいい。
 そして、オンライン販売は今後も重要性を増していくので、資源を持たない中小の書店がその移行ができるように補助するのだ、と。

 たしかに、運営上このような障害が生じるのは、予測されたことではあります。
 とはいえ、店をひらけないという非常時のなか、〈ブックショップ〉の存在が独立系書店への経済的保障となっているのはまちがいないでしょう。
 どれだけ地歩を占め、ネット書店の地図を変えることができるのか。〈ブックショップ〉はまだまだ動きはじめたばかりです。

[斜めから見た海外出版トピックス:第33回 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

冨田健太郎(とみた・けんたろう)

初の就職先は、翻訳出版で知られる出版社。その後、事情でしばらくまったくべつの仕事(湘南のラブホテルとか、黄金町や日の出町のストリップ劇場とか相手の営業職)をしたあと、編集者としてB級エンターテインメント翻訳文庫を中心に仕事をし、その後に法務担当を経て、電子出版や海外への翻訳権の輸出業務。編集を担当したなかでいちばん知られている本は、スペンサー・ジョンソン『チーズはどこへ消えた?』(門田美鈴訳)、評価されながら議論になった本は、ジム・トンプスン『ポップ1280』(三川基好訳)。https://twitter.com/TomitaKentaro