INTERVIEW

詩と詩人と詩集のはなし

詩と詩人と詩集のはなし
菅原敏+萩野正昭 2/3

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YouTubeに毎晩粛々とアップされる「詩人天気予報」が一部でアツい話題を集める、詩人・菅原敏(すがわらびん)。「今、一番キザな詩人」を体現するその強烈な朗読スタイルで、日々ファンを増やしています。
彼の詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』のペーパーバック版を昨年出版し、詩と人との接点について長年模索し続ける株式会社ボイジャーの萩野正昭もまじえ、これからの詩人、詩集、そして詩の自由な在り方を、DOTPLACE編集長の内沼晋太郎が聞いてきました。
中編である今回は、菅原さんとその詩集作りを支えたボイジャーとの縁について。

前編からの続きです

ボイジャー・萩野正昭との偶然の巡り合わせ

内沼晋太郎(以下、内沼):そしたらここから萩野さんにもお話を。
 そもそもボイジャーさんと菅原さんの接点ができたのもクレイグ(・モド)がきっかけですか?

萩野正昭(以下、萩野):そうですね。クレイグはBinB――「Books in Browsers」(※編集部注:インターネットブラウザ上で展開できる電子書籍ビューアー)に関する取り組みなんかでも色々と活躍していて、日本語も流暢だから非常に興味深い人だった。それから彼は「TAPESTRY」っていう、文字に動きをつけたりして映像化するソフトウェアを紹介していました。これは昔からあるソフトなんだけど、それがちょっと洗練されていて面白いなと思っていました。

萩野正昭[ボイジャー]

萩野正昭[ボイジャー]


内沼:敏さんは萩野さんとの最初の接点って覚えてらっしゃいますか?

菅原敏(以下、菅原):去年(2013年)の頭にアップルストア銀座で「詩と電子書籍」をテーマにTAPESTRYを使った講演をした時だと思います。萩野さんがクレイグを見に来てて、面白い方だなって思って。その後、下北沢のB&Bで電子書籍についてのトークイベントを俺とクレイグでやらせていただいた時に再会して、たぶんイベント後にちょっとお酒を飲みながら話したんです。ボイジャーには昔から詩と接点があったり、メディアをまたいでそういう活動をしていたというのを知って「面白い出版社があるものだなあ」と。それが最初の印象ですね。

萩野:その時は『ポエトリー・イン・モーション』(※編集部注:ボイジャーから1992年に発売されたCD-ROM。テキストとその朗読パフォーマンスのQuickTimeムービーを並置したシンプルな構成だった)の話をしたよね。80年代終わりから90年代の初めにアメリカの本屋とかで撮られた朗読会の記録フィルムに、読んでいる詩の文字をつけたもので、文字をクリックするとそこから映像が喋りだす。朗読っていうと、しかめっ面してやるものかと思っていたらとんでもなくて、ビートジェネレーションズの代表格であるギンズバーグとかが、アドリブもあるし踊っちゃったりなんかして。「こういう自由な世界があるのか」とすごく印象に残った。米国のボイジャーが初期のCD-ROMとして作ったのが『ポエトリー・イン・モーション』ですね。


CD-ROM『ポエトリー・イン・モーション』(ボイジャー、1992年)

菅原:そうなんです。俺も実際に見せてもらいました。ボイジャーとはクレイグを経由した電子書籍での繋がりと、詩の部分での繋がり。この2つが大きいですね。

萩野:ウチでは、新しくて珍しいことをやりたいっていう気持ちが常にあるんですよね。“新しい”っていうのは “若くてやんちゃ”っていうことでもあるんだけれども、俺と菅原さんが志向しているのは“ちょっと渋め”なんだよね。ひねくれているというか、苦みばしったところがあるというか。そこがぴったり合ったわけなんです。
 さっきも話に出ていたけど、やっぱりちょっと難しいじゃないですか、詩で生きていくのって。だから「浮き世は夢よ」という言葉もそうだけど、その時その時に面白いと思うことを、できないことも多いけど、できる限りその時にやってみようという思いが(菅原さんにもボイジャーにも)あって、そのたまたまの巡り合わせだったんだよね。
 
 

ライバル・BCCKSの力を借りて作ったペーパーバッグ

内沼:最初は一緒に電子書籍を作ろうっていう話になったんですか。

萩野:僕らは電子本をやりたいっていう気持ちはあったんだけど、何からできるのか考えた時に、まずはペーパーバッグに行き着いた。いろんなところで朗読パフォーマンスしていると、みんな詩集を欲しがるんだけど、クレイグのところ(PRE/POST社)から既に出していた詩集は、立派な装丁だったぶん、ちょっと高いんだよね。

菅原:4100円です。かなりこだわって作られた美しい本ですが、パッと手軽には買えないですよね(笑)。それで、もう少し価格の安いものも作れたらなという相談を萩野さんにさせてもらって。

萩野:「なんとかできるんじゃないの」っていう気持ちで始めたんだけどね。安く本を作るのはいくらでもできるんだけど、“安いけどなんとなくカッコイイ”っていうモノを作るとなると難しいよね(笑)。これは才能がいるわけですよ。そこで考えたのが、松本弦人っていうデザイナーの起用。彼はBCCKS(※編集部注:電子書籍や紙の本の作成、公開、販売ができるWebサービス。グラフィックデザイナーの松本弦人氏がチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める)のスタッフで、ある意味僕らのライバルなわけです。だけどライバル同士が一緒にモノを作るっていうのは、面白いじゃないですか。だから、思い切って彼に電話してみたら「いいよ。やってみようか」みたいな感じで気軽にノッてくれるいいヤツで。ペーパーバッグも気に入ったものが出来てきたんだよね。

内沼:本はオンデマンドで刷ったんですか?

萩野:松本弦人のデザインで、彼がBCCKSで使っているプリントの仕組みを使って全部作ったんですよ。ウチはそれを発注して作ったという感じです。

内沼:廉価版の詩集ができてみて、菅原さんはどうですか?

菅原:実際、自分の詩を広く届けられるようになりました。値段も1000円なので、朗読会に来てくれるお客さんにも買いやすいものになった。方々で朗読する機会も多かったので、そういう時も一つのツールとしてとても役に立ちましたね。パラフィン紙に包まれたデザインもすごくかわいいし、素敵な一冊を作っていただきました。

内沼:中身は最初の詩集と完全に一緒なんですか?

萩野:一緒です。でも廉価版になってるから、カラーは使えないとか色々な制約はありました。

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「ライブ」と「詩集」が一緒になった新しい電子本

内沼:裸でベランダ/ウサギと女たち』の電子版はどうなるんですか?

萩野:電子版はまだこれからなんですよ。「Text-Player」という、今現在、新しく開発中の技術を使って立ち上げる「POETRY」(という独自のレーベル)から出すつもりです。

内沼:「POETRY」というのは、どのようなものなんですか?

菅原:ページのめくりに対して音声が一緒についてくる電子書籍です。ペラッとをページをめくると、そのページの朗読が聴けるようになっています。もちろん音だけ消して、普通の電子書籍としても読めるし、音を出せばライブに行って朗読を聴いているような感覚も体験できる。自分も朗読会やライブで詩を聴いてもらうスタイルをとってきたので、今の菅原敏にとって一番親和性のあるデジタルツールです。
 今、クラウドファンディングでラジオ番組を作ろうとしているんですけど(記事末尾参照)、もともとはその協力者へのリターンの一つとして何か作りたいということでご相談させていただいたんです。さっき、まさに声を収録していたところでした。

内沼:もともと「POETRY」は音楽用として作られたツールだったんですか?

萩野:まず電子的な出版物をどういう風に考えようかという根本があるんです。僕はもともと映画出身だから、「映画と本が一緒になることはできないか」という命題を長い間持っていた。そして「音楽や音声と本が一緒にならないか」っていうのも、ボイジャー創業当初からのテーマなんですよ。マルチメディアとかデジタルっていう言葉がいっぱい出てきて、いろんなことができるようになった今、その中でものすごく重要だと感じているのは「それを全部やっちゃいけない」ということ。動いたり走ったり飛び跳ねたり、ああいうの絶対ダメなんだよね。なぜかっていうと、本来は紙の本って本当にシンプルなもんでしょう。でも本を読んでる人間の頭は、イメージだけで限りなく千里の道を歩いてるわけじゃないですか。それがやっぱりすごいところだと思うんですよ。デジタルのメディアって「どうだ、すごいだろ」と言わんばかりに、テクノロジーでできることをやり尽くしちゃうところがあるけれど、それは間違っていると思うんですよ。だからもっともっと禁欲的に、当然やるべきところだけをやるべきだと思うんですけどね。そういう意味で、詩の朗読と詩の本っていうのは、ものすごく合っているような気がしたんですよね。

内沼:クレイグの書いた電子書籍『「超小型」出版』の中にも、萩野さんがおっしゃったようなことが出てきましたね。(「シンプソンズ」のホーマー・シンプソンが色々な設備を搭載した車「ザ・ホーマー」を作ったように)今の電子書籍はコテコテに“ホーマー化”されてしまっている、という話で。

萩野:クレイグと僕らが通じるところは、やるべきじゃないところはなるべくやらないで済ますということ。だけど、どうしても音が聞きたいってこともあるわけだから、最後の最後のところはどうやって入れ込むか考える。ギリギリのところまで(要素を)切り刻んで排除していくっていうやり方です。本の編集なんかもそうでしょう。

内沼:では「Text-Player」として開発された技術を使って展開される新レーベルみたいなものが「POETRY」っていう位置づけなんですね。

萩野:そうです。そういうことをやりたいってずっと思ってたんだけど、コンテンツの中の音にも権利とかが色々あるから、僕らではコントロールできない。なので僕らは(コンテンツではなくて)「Text-Player」という道具を作って、そして今度は菅原さんとも組んで、もっと自由に自分たちでコンテンツも作っていく。ウチの会社は資本力があるわけじゃないから、誰かの下請けである仕組みを作って、その仕組みを自分たちのものにも適用していくっていう、2段階戦術なんですね。
 コンテンツがないと発想はできないじゃないですか。モチベーションが上がらない。できることが見つかると、まずそれをやってみる。結果、「こういうことができるのか」とわかると、「じゃあ次はこれもできるんじゃないかな」って、広がっていきますよね。そういう話なんですよ。

内沼:今回の菅原さんのやつも、アプリとかにするのではなくてブラウザからURLを入れれば見られるようにするんですね。販売はするんですか?

菅原:最初はクラウドファンディングの(協力者への)特典として公開しようかと思っています。のちのち様子を見て、販売できるような形をとれればいいなと思います。

内沼:じゃあ最初は特典URLを配るんですね。収録されてみていかがでしたか?

菅原:(「Text-Player」の)サンプルを見た時に、自分のライブの音をテキストに乗せてもらっていたんですけど、こういう見せ方も面白いなと思いました。Youtubeとはまた違って、文字でも詩を追いつつ、音も聴けて……っていうのはいいなって。完成品を早く見たいですね。


「POETRY」版『裸でベランダ/ウサギと女たち』サンプル

内沼:今回は詩集(『裸でベランダ/ウサギと女たち』)を全部朗読して収録するということですか。

菅原:そうですね。今3分の1ほど読み終わって、これから一冊丸々収録です。

3/3に続きます(2月28日更新)

聞き手:内沼晋太郎 / 構成:井上麻子
(2014年2月17日、株式会社ボイジャーにて)

 

●「詩人天気予報」、ラジオ番組化達成なるか?
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プロジェクトページ:https://greenfunding.jp/projectroom/projects/673


PROFILEプロフィール (50音順)

菅原敏

詩人。2011年に詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をアメリカの出版社PRE/POSTよりリリースし、逆輸入デビュー。菅原敏の「詩集」と現代美術家・伊藤存の「刺繍」により実現したアートな一冊として各方面で話題を呼ぶ。 BEAMSやスターバックスコーヒー、NIKEなど異業種とのコラボレーションから、ラジオ・テレビでの朗読、雑誌や新聞への寄稿、講演、ナレーションまで。紙の上だけではない「詩」を表現する気鋭の詩人として、その活躍の場を広げている。 2013年8月には詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』のペーパーバック版をVOYAGERよりリリースした。 現在、Youtubeにて「詩人天気予報」を毎晩更新中。 【Twitter】http://twitter.com/sugawara_bin 【詩人天気予報】http://www.youtube.com/user/sugawarab/videos 【bayfm78 PROJECT ROOM】 ラジオ業界初!? 詩人の冠番組を1ヶ月オンエア!菅原敏の「詩人天気予報」 greenfunding.jp/projectroom/projects/673

萩野正昭[ボイジャー]

1946年東京都生まれ。株式会社ボイジャー取締役。「DOTPLACE」発行人。映画助監督をふりだしに、ビデオ制作、パイオニアLDCでのレーザーディスク制作等を経て1992年にボイジャー・ジャパンを設立。著書に『電子書籍奮戦記』(2010年、新潮社)、『木で軍艦をつくった男』(2012年、ボイジャー)。