INTERVIEW

詩と詩人と詩集のはなし

詩と詩人と詩集のはなし
菅原敏+萩野正昭 3/3

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YouTubeに毎晩粛々とアップされる「詩人天気予報」が一部でアツい注目を集める、詩人・菅原敏(すがわらびん)。「今、一番キザな詩人」を体現するその強烈な朗読スタイルで、日々ファンを増やしています。
彼の詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』のペーパーバック版を昨年出版し、詩と人との接点について長年模索し続ける株式会社ボイジャーの萩野正昭もまじえ、これからの詩人、詩集、そして詩の自由な在り方を、DOTPLACE編集長の内沼晋太郎が聞いてきました。
後編の今回、とうとう話題は「詩人天気予報」に。

前編中編からの続きです

ラジオ vs. ウェブという実験

内沼晋太郎(以下、内沼):ちょっと話がズレますけど、菅原さんはもともとバンドをやられていて、音楽についてもかなり詳しいじゃないですか。例えば、切り貼りしてデジタルで音源を作って……みたいなことも、自分でできちゃうんですか?

菅原敏(以下、菅原):今Youtubeで毎日配信している「詩人天気予報」は自分ひとりで映像と声を収録、編集して毎回アップしています。ナレーションの仕事もしているので、馴染みがあるのかもしれないですね。

内沼:菅原さんみたいに自分で映像から音まで作って最終形にして、アップするところまでできる“詩人”ってなかなかハードルが高いというか、他にいないでしょうね。

菅原:そうですね(笑)。でも、やっぱり最初は時間がかかりました。詩人天気予報は1分くらいの動画なんですけど、作るのに8時間くらいかかっていた(笑)。なので最初だけは、ライティングを見てもらったり、レコーディングのエンジニアをやっている後輩に家まで来てもらったりして。手持ち機材のスペックでいかにキレイに撮れるかというのが課題でした。クレイグ(・モド)にアメリカのいろんなYoutubeのサンプルを見せてもらいつつ研究して。今は自分で1本1時間ちょっとぐらいで作れるようになってきました。


「詩人天気予報」1月23日(木)の天気

内沼:「詩人天気予報」って、毎日その日に自分で撮ってるんですか?

菅原:そうですね。毎日夕方5時に気象庁が発表する明日の天気があるんですけど、それを見てから詩を考えて、収録・編集という流れです。

内沼:あの映像って、けっこう色々な角度から一言ずつ映像が切り取られてるじゃないですか。僕、あれを見た時に、「ひょっとしてよく使う言葉はサンプリングしてあって、切り貼りしてるのかな」って思っていたんですけど、そうじゃないんですね

菅原:よく使う「晴れ」とか「雨」とか「時々」などの部分は使い回しできるんですけど、基本的に天気は毎日変わるので、その日に合わせて1回全部撮っています。ビート・ジェネレーションの詩人たちがやっていたカットアップの手法のようなものを、今のテクノロジーでやったらどうなるのかなっていうコンセプトもあるので、過去に撮ったフレーズや単語を抜粋して使い回すこともあります。

内沼:なるほど。萩野さんは「詩人天気予報」をご覧になってどうでしたか?

萩野:まあ、「またいろんなことやってるな」って思ったけど(笑)。

内沼:「天気予報をやろう」というのはいつ思いついたんですか?

菅原:実際にやろうと思い始めたのは去年の12月ぐらいですかね。もともとはラジオ番組を自分で配信しようと思っていたんですよ。色々あって、自分の番組をラジオ局で実現するのは難しく、それならYoutubeで自分から発信しようと。最初は各国の詩人の紹介コーナーとか、音楽のコーナーとか色々あったんですけど、「詩人が15分くらいの番組を作ったとしても、たぶん誰も見ないよね」ということをクレイグとも相談してて。やっぱりシンプルにシェアされるのって、せいぜい1分間くらいの動画じゃないかということで、そぎ落としていって、最終的に残ったのが「天気予報」だったんです(笑)。

内沼:なるほどなるほど。その最初の15分の番組も、一度は全部撮ってみたんですか? 

菅原:1回やってみましたね。しかも、ターンテーブルと卓上マイクがあって、時計があって……という、ドナルド・フェイゲンの「ナイトフライ」のジャケットをモチーフにしたレイアウトで撮ろうとしていて。ターンテーブルも過去に女の子にあげちゃったやつを「悪いんだけど返してくれない?」って言って持って来てもらって(笑)。でも実際にやると、どう撮ってもすごくチープになってしまうんですよね。「ナイトフライ」のようにはならなかった。だから、もう根本から変えたほうがいいんじゃないかということで今の形になりました。

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萩野:天気予報もそうだけど、テレビのニュース番組とかの形式の変化の過程を見ていると面白いんだよね。だから、2014年になって詩人が天気予報を読んだっておかしくないわけでさ。これからまた違う人が出てくるかもしれないし。

内沼:今度、気象予報士の方とも対談されるんですよね?

萩野:そうそうそう。

菅原:山本志織さんというNHKでも長いこと天気予報を読まれていた方と、月末にトークイベントをやります(※編集部注:2月27日に開催済み)。この前打ち合わせしてきたんですけど、同じ天気予報の作り方を話すにしても、あたりまえだけど全然違う(笑)。彼女が大勢のスタッフと一緒にテレビで1回5分間放送するものと、俺が一人でやっている1分間のあの天気予報、それぞれをどうやって作っているのかを話すだけでも、対比が面白いなと思いました。それぞれが天気予報を始めたきっかけも全然違うし、そもそも、詩人と気象予報士が対談するなんて多分初めてのことだろうし。

萩野:我々の中で“詩”っていうとさ、ものすごく頑なに持ってる(既存の)イメージがあるじゃないですか。そういう部分を砕いていってさ、越境していく……そういうのは面白いと思うんですよね。

菅原:これまで詩が届いていない場所とか、詩に対して容赦なさそうな場所に敢えて持って行くと、逆に面白いのかなと思っていて。

萩野:歌謡曲の歌詞なんてものすごく考え抜かれて作られてますよね。あれを“詩”として意識するってことは少ないじゃない? あれはそういう意味でマーケティングに成功したというか、ビジネスとして成功した世界だと思うんだけどね。もっともっといろんな詩人の可能性っていうのはあるんじゃないかなと、そう僕は見てますけど(笑)。

菅原:いやー。俺もそれを信じてやるしかないですね(笑)。
 
 

クラウドファンディングで念願のラジオ番組に挑戦

内沼:そしたら最後に、菅原さんが今やられているクラウドファンディングでのラジオ番組制作の話を聞かせてください。ラジオ番組から一度天気予報に行って、やっぱり再びラジオへと戻ってこられたんですね。

菅原:そうですね。このプロジェクトは“ラジオvs.ウェブ”の実験とも思っていて。ラジオって100年以上前からあるメディアで「もうウェブに食われちゃってる」とか、そういう話を聞くけれども、詩を読むにはすごくいいメディアだと思っているんです。Youtubeだと、しっかり聴いてもらうにはやっぱり1、2分間までだと思うんですけど、ラジオであれば5分間でも10分間でも耳を澄ましてもらえる。ラジオのような古いメディアをやっていくために、クラウドファンディングとかソーシャルメディア、Youtubeといった最新のコミュニケーションツールを最大限に使ってみるというのは、ちょっと面白いなって思っていて。
 あとは実際にラジオをやってみて、その威力を見てみたいというものあります。拡散する力はWebの方が大きいと思うんですけれども、そこをラジオでやるメリットだったり、どの程度の波及効果があるか、その辺もちょっと実験的な試みで楽しいなと思っていて。単純に、「ただラジオがやりたくて番組を持ちたい」っていう気持ちももちろんあるんですけどね。Youtubeとラジオを同時に走らせてみて、それぞれ比べてみる……そんなことができたらいいなと思っているんです。そのラジオ番組を製作するための資金を、クラウドファンディングでまさに今集めているところです。

内沼:ラジオで読むのも基本的に天気予報なんですか?

菅原:基本的には「心模様が◯◯の人にはこんな詩を贈るよ」といった内容を中心に考えています。空模様と心模様。最近、天気って詩的なものだなあと改めて(笑)。まだクラウドファンディングの達成率が56%くらいだったと思うんですけど(※編集部注:2014年2月17日時点)、100%超えないとどうにも実現できないので……。「詩を読みまくりたい」っていう理由でラジオ番組の枠を一個買っちゃうっていうのも、試みとしてはポエティックだなと自分に言い聞かせつつ(笑)、世界に一つぐらいそういう番組があってもいいんじゃないかという気持ちです。

内沼:菅原さん、萩野さん、今日はありがとうございました!

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[詩と詩集と詩人のはなし 了]

聞き手:内沼晋太郎 / 構成:井上麻子
(2014年2月17日、株式会社ボイジャーにて)

 

●「詩人天気予報」、ラジオ番組化達成なるか?
菅原敏さんが現在「bayfm78 PROJECT ROOM」でクラウドファンディングに挑戦中です。達成金額の150万円をクリアすると、bayfm78にて1ヶ月間、詩人による冠番組が放送されるとのこと。期間は3月3日まで!
プロジェクトページ:https://greenfunding.jp/projectroom/projects/673


PROFILEプロフィール (50音順)

菅原敏

詩人。2011年に詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をアメリカの出版社PRE/POSTよりリリースし、逆輸入デビュー。菅原敏の「詩集」と現代美術家・伊藤存の「刺繍」により実現したアートな一冊として各方面で話題を呼ぶ。 BEAMSやスターバックスコーヒー、NIKEなど異業種とのコラボレーションから、ラジオ・テレビでの朗読、雑誌や新聞への寄稿、講演、ナレーションまで。紙の上だけではない「詩」を表現する気鋭の詩人として、その活躍の場を広げている。 2013年8月には詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』のペーパーバック版をVOYAGERよりリリースした。 現在、Youtubeにて「詩人天気予報」を毎晩更新中。 【Twitter】http://twitter.com/sugawara_bin 【詩人天気予報】http://www.youtube.com/user/sugawarab/videos 【bayfm78 PROJECT ROOM】 ラジオ業界初!? 詩人の冠番組を1ヶ月オンエア!菅原敏の「詩人天気予報」 greenfunding.jp/projectroom/projects/673

萩野正昭[ボイジャー]

1946年東京都生まれ。株式会社ボイジャー取締役。「DOTPLACE」発行人。映画助監督をふりだしに、ビデオ制作、パイオニアLDCでのレーザーディスク制作等を経て1992年にボイジャー・ジャパンを設立。著書に『電子書籍奮戦記』(2010年、新潮社)、『木で軍艦をつくった男』(2012年、ボイジャー)。