20th CHOFU SHORT FILM COMPETITION グランプリ 河内彰 「光関係」より
遠い二十歳の頃、一緒に自主映画を制作した仲間たちは、同時に映画の愉しみ方も教えてくれた。例えばゴダールならば「勝手にしやがれ」ぐらいしか、それもかなりいい加減にしか観ていなかった私に、彼らは、80年代以降のゴダールや、ヘルツォーク、パゾリーニ、エドワード・ヤン、デヴィッド・リンチ、マヤ・デレンなどなど、数えきれぬほど多くの映画を薦めてくれた。アートでもスポーツでも、どんなジャンルでも当てはまると思うが、その世界に触れる機会が多ければ多いほど、理解できる領域も増えてくる。海の底に潜り、洞窟に足を踏み入れ、その場所がどこまでも深く広いことを少しずつ知るように、人間が長い年月をかけて豊かに実らせた文化の恵みを存分に享受するためには、時間と、情熱と、時には適切な案内人、もしくは旅の同行者が必要だ。
比較的時間のある学生の時期に彼らに出会えたことは、幸運だったと言える。彼らのおかげで、私は映画を自分で「観られる」ようになったと思っている。映画経験を重ねることで自分の鑑賞眼を養う、という旅に、よちよち歩きながらも、出発できたのだ。作品を観て、映画史に照らし合わせてみたり、自分の眼を疑ったりしながら、映画の見方のバリエーションを少しずつ増やしていき、批評する、その繰り返し。この時、批評はその場しのぎの感想とは違ってくる。長い旅の途中で、どのように自分の眼や感性や知識が養われたかを言葉の形にして表す、経過報告の一種なのだ。だから同じような旅をしている人と、道中の話を報告し合えることが嬉しくなる。
同時にこの頃、鑑賞と批評に加えて、映画制作も齧ることができた。仲間たちと一緒に何本か短編映画を撮影し、夕張や水戸など地方の映画祭のコンペティション部門に出品、幾度か上映してもらった。今では演劇や舞台演出のほうに自分の活動の主軸は移ったが、映画の経験は貴重な糧となった。他人と共同で制作する場合ならではの、想定外の事態が起こす小さな奇跡とか、大勢の人が一つの作品のために動くことで生まれる力だとかは、実際に触れなければ、この世に存在することすら気がつかない。「星の王子様」ではないが、目に見えないものに触れられるということは、人生の暗闇に明かりが灯るようなもので、これに如くものはない。
鑑賞と批評と創作、この三つ巴は、繋がり合ってつねに連動しており、どれが欠けても成立しないものだと思う。文化の成熟と発展が促されるためには、その三者が見事に絡み合って、互いに力を増幅させていくための場所と、それに関わる人々の存在と、時間の積み重ねが必要になってくる。簡単に消費されない秀でた才能が登場するためには、無数の凡作やそれを抱えられる懐深い環境が用意されていなければならない。たとえば環境のあり方が省みられぬまま、突然現れたたった一人の天才作家(あるいは話は広がるが、天才起業家など)が、衰退した文化状況を一気に救い上げてくれるのではという幻想を頼りに、企業や行政が草の根分けて才能を探したところで、大きな成果は得られないに違いない。
以上、長すぎる前置きだったが、今回取り上げたいのは、「Chofu Short Film Competition(調布ショートフィルム・コンペティション)」という調布市が主催する短編映画コンペティションのことだ。今年でじつに二十回目になるというこのコンペをレポートすることを通して、芸術文化の育成やそれを可能にする環境の創出について少し考えてみたいと思う。
[見えないアトリエを張り巡らせる 前編 了]
後編はこちら。
20th CHOFU SHORT FILM COMPETITION
表彰式及び入賞・入選作品上映会
全国から集まった30分以内の短編自主制作映画81点のうち、入賞・入選に輝いた16作品を一挙上映します。ドラマ、アニメーション、映像詩など、様々なジャンルのここでしか見られないショートフィルムの世界をお楽しみください。
◎本審査員:瀬々敬久(映画監督) 真利子哲也(映画監督) 千木良悠子(作家・演出家)
◎日時:2017年2月26日(日)
◎表彰式 13:00~13:30(開場12:30) 上映会 13:30~19:30
◎Aプログラム13:30~15:00/Bプログラム15:45:~17:15/Cプログラム18:00~19:30
◎会場:調布市せんがわ劇場(京王線仙川駅より徒歩4分)
◎定員:各120人 ※入場無料(当日先着順、事前申込み不要)
◎主催:公益財団法人調布市文化・コミュニティ振興財団/調布市
◎後援:J:COM/調布FM 83.8MHz/調布市観光協会/調布市教育委員会/調布パルコ
COMMENTSこの記事に対するコメント