気鋭のクリエイターを月替わりで起用し、本/読むこと/書くこと/編むことにまつわるグラフィック作品を展示する「DOTPLACE GALLERY」。2022年2月期の担当は、書籍の挿絵や装画など、物語の背後の気配をあわい色面で彩るイラストレーターのムラサキユリエさんです。目に映る景色を拡張してくれる「読書」という体験を、空間ににじませるような、印象的な作品を描き下ろして頂きました。
ムラサキユリエさんに聞きました
——どのようなイメージまたはコンセプトで今回の作品を制作されましたか。
「本」「読むこと」という言葉をいただき、自分の読書体験を思い出しながらこの絵を描きました。
本を読むことは、自分にとってこの場所で文字を読んでいる自分と、読むことで現れる空間が全く同じものであるように近づいたり、
時間が経つごとに思い出のように離れたりするような体験です。
その中でも覚えていたい空間にふせんを張っているような、(現実ではそれはできないのですが、読書体験ではそれができるような気がするので)そんな絵になりました。
——普段、作品制作の上で重視していることは何ですか。
人の気配のようなものが場所や物に現れてくることに興味があるので、そういったものを日頃から意識して制作していると思います。
画材としては、ケント紙にアクリル絵具を使うことがほとんどです。
——ムラサキユリエさんにとって大切な本を1冊挙げるとしたら何ですか。
本を読むようになった年齢がとても遅かったので、実はいまでも通読する読書が得意ではありません。
ひとつの本を読んでいると、違う本のあの場面が読みたいと思い、そうするとあの音楽がききたい、書かれていた場面から連想するあれが食べたいと遠回りして、読むことからはじまるそんな一連の体験が中々終わらない読書を日々しています。
なので、1冊を挙げるのがとても難しいのですが、大切な本という意味であげるとすれば吉田健一の『怪奇な話』にしたいと思います。
この短編集のなかにある「流転」というお話の冒頭、
- 自分がどこか或る場所にいる積りでいてそれが別な場所であることが解るか
或はその別な場所に変るのは仮にそれがそういう錯覚に陥ったのであっても悪い気持はしないものである。
(吉田健一『怪奇な話』)
という一節は、まさに読書体験を思わせるような始まりでとても好きです。(日常のなかでもこのような体験が好きなのですが。)
吉田健一の文章は読んでいるその瞬間がいつも揺れ動くように面白いので、いつのまにか読めてしまいます。
——今後のご活動について何かございましたらどうぞ。
昨年の11月に『青々 -誰かの文書と並走する絵- 』という冊子を作りました。
誰かの書いた文章と青い絵の連なりが並走するように流れていくものを作ってみたいと思ったのがきっかけです。
文章の持つリズムのようなものと、絵の連なりによって生まれるリズムを頼りに
それぞれが持っているものは保ったまま、互いに近づいたり離れたりしながら並走するような関係が現れるようなものを目指したいと思っています。
1冊目の文章は宮沢賢治の『春と修羅』の序文です。
現在はondo galleryさんのギャラリーとオンラインストア、2/13まではポップアップで未来屋書店(高崎店)さんでお取り扱い頂いているので、良ければお手にとってみていただけると嬉しいです。
今年は他にも色々な場所に置いていただけるように頑張りたいと思います! 今後も、ゆっくりですが制作していければと思っているのでどうぞよろしくお願いいたします。
[DOTPLACE GALLERY #089: ムラサキユリエ 了]
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