COLUMN

山口文子 未明のマンガ論—マンガは拡張する3.0
「フランスの「MANGA」が持つ多義性と可能性」後編

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 DOTPLACEにて2013年から連載を開始した「マンガは拡張する」シリーズ最新作、「未明のマンガ論」。連載開始から約5年の間にも、マンガのポテンシャルは拡張し続けています。その実態を様々な角度から捉え、より広げていくために、今回の連載ではリレー形式でテーマを受け継ぎながら、複数の異なる経験を持つ執筆者が実態をレポートしていきます。

 第四回は山口文子さん。前回のいわもとたかこさんの原稿を受けて、コミックエッセイの「共通言語性」に触れつつ、自身も在住するフランスのコミック事情について現地取材をしていただきました。
前後編の後編はパリのマンガカフェ「Le Manga Café V2」のレポートと、同創業者コルドヴァ・ベンさんのインタビューをお届けします。

「フランスの「MANGA」が持つ多義性と可能性」前編はこちら。

「マンガは拡張する」シリーズ
●「マンガは拡張する[連載編]」はこちら
●「マンガは拡張する[対話編]」はこちら
●「マンガは拡張する[対話編+]」はこちら

パリ・マンガカフェの開かれた空間に込められた想い

 フランスのマンガ人気を象徴するように、パリにはマンガカフェ「Le Manga Café V2」がある。ガラス張りのおしゃれで明るい外観は、一見すると雑貨屋さんのような雰囲気。一階は幅広く日本の雑貨やお菓子・飲み物、そしてもちろんマンガなども購入できるようになっており、マンガカフェを利用しなくても気軽に利用できる。オフィスも多い地区にあるため、近くで働いている人たちが、毎朝日本人のお弁当専門スタッフが作っているというBENTOをテイクアウトしていく姿も。

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 マンガカフェの利用方法は日本と同じで、受付で入店時にレシートを発行してもらい、一時間3€または4€(曜日と時間帯で異なる)で、マンガ読み放題というのが基本プラン。10~100時間、チャージ時間に応じて割安になるプリペイド式のカードや一日券も用意されている。もちろんドリンクバーが設置され、一階の少し奥まったスペースにはPS4などのゲームコーナーもあり、こちらも料金内で利用できる。

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 メインスペースは二階で、棚には18000冊以上のマンガが基本的にアルファベット順に並んでいる。日本のプライベート空間重視の作りとは異なり、ゆったりしたソファや開放的な空間が特徴。とはいえ一階には来仏した漫画家たちのサインが飾ってある、ぺたんと座れるお籠もり空間があるので、一人でマンガの世界に浸りたい人はそちらを利用すれば良いだろう。

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 創業者のコルドヴァ・ベンさんに「Le Manga Café V2」について、そしてフランスのマンガ事情についてお話を伺った。

コルドヴァ・ベンさんインタビュー

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――なぜフランスにマンガカフェをと考えたのでしょう?

 2006年の夏、5区に小さな1店舗目「V1」を開業した。当時フランスではマンガ人気の盛り上がりがすごくて、新タイトルも続々出ていた。でも図書館にはほとんどマンガはないし、探すとなるとFnacなど大きなお店まで行って、気になるものは床に座り込んで読む。ゆっくりマンガと出会うということができなかった。好きなマンガを見出せる場が必要だと思っていて、日本のマンガカフェのことをインターネットで知ったんだ。

 当時僕は18歳で、母親たち3人でマンガカフェを始めたけど、当初は出版社から「カフェでマンガを読まれてしまったら、マンガの売り上げが落ちる」と否定的な意見もかなりあった。今でこそお気に入りのマンガに出会える場があれば、マンガの購入にも繋がると理解してもらえてうまくいっているし、メディアでも取り上げられるようになったけれど、2~3年のうちは苦労したよ。後ろ盾も、日本とのコネクションがあったわけでもないしね。

 店を始めると決めて1~2年はものすごく忙しかったから、日本のマンガカフェを実際に訪れたのは、実はパリでマンガカフェを始めた後なんだ。すごく狭苦しくて、僕は1時間もいられなかった。3~4回行ったけど、もう充分(笑)

 日本人はプライベート空間を大事にしたいというのは知っているけど、マンガに出会う、見出すという意味では、この店のように、もっと開かれた空間のほうがいいと思う。ここではお客さん同士が好きなマンガを勧めあったり、情報交換をして仲良くなることもよくある。一人でいたら知らないままのマンガというのもあるだろう。

――2006年の開業当時と比べて、マンガを巡る状況や、お客さんに変化はありますか?

 2004~2007年というのは、フランスのマンガ市場がすごく伸びていたけど、そのあと2015年くらいまで停滞してしまった。マンガ人気から、各出版社が毎週のように新しいタイトルの翻訳本を大量に出して、飽和状況に陥ってしまったんだ。正直心配だったけれど、この3年くらい再び市場が活気を取り戻している。流通させるマンガの数を以前より絞って、ひとつひとつの作品に対するプロモーションに力を入れるようになったのが成功した。人気のマンガが完結しても、途切れず『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平)や『ワンパンマン』(原作:ONE、作画:村田雄介)などヒット作が出てきて勢いを後押ししている。

 現在、フランスで購入されるBD(バンドデシネ)の約半分がマンガなんだ。(筆者注:フランスのマンガであるBD市場には、ベルギー・フランスのBD、アメリカのコミックス、日本のマンガの三種類がある)BD市場の内訳ではマンガが40~45%、BDが30~35%、アメコミは10~15%くらい。3年前はマンガが占める割合は30%くらいだった。

 フランス人はBDをよく読むけれど、一冊が出るのに一年はかかる。子供たちは一年も待っていられないし物語も忘れてしまう。マンガは2~3ヵ月で次の巻が発売されるから、買う足も途切れないんだ。今ではマンガは週30~40タイトル発売されているよ。

 2011年に、この二店舗目「V2」を始めてから、小さすぎた「V1」は閉めた。お菓子や雑貨も扱えるようになって、マンガに特に興味がなくても日本に興味のある人たちが訪れるようになった。日本のお菓子は季節限定でどんどん変わるから、常に輸入することは不可能なように思われたけど、今では日本の業者との提携もできて毎月新発売のお菓子を紹介できているよ。日本の「今」を紹介できる場になっているんじゃないかな。

 お客さんは、だんだん女の子や女性が増えているね。最近は60%くらい。なんといっても少年マンガが人気で、それを女の子も読み始めたんだ。ジャンルの人気・流通量でいうと、少年>>青年>少女。レディースコミックはとても少ないね。うちの店ではマンガのセレクションはせず、売り出したものは全て買うというスタイル。フランスで流通しているマンガはほぼ並んでいるはずだ。アダルトマンガなどもあるから、それは子供たちの手が届きにくい棚の高いところに置いているよ。それでも読めてはしまうけど……。

――お客さんは若い世代や常連が多いのでしょうか?

 平日は、大人がメインになる。学校が休みの期間は子供もくるけれど、基本的にこの近辺が生活圏の人で、働いている人が多いね。週末には子供たちや、パリ郊外からわざわざ訪れるという人が増える。2~3時間基本料金で楽しんでいく人と、プリペイド式カードを購入している常連と、半分半分くらいかな。常連はマンガを買うためだけに来ることも多い。

 フランスのマンガを読む層は以前から15~25歳というのがメインだけど、昔アニメやマンガに親しんだ世代が大人になって、自分の子供たちにもマンガを与えているから、ファンの層はより広がっているね。

――フランス各地やヨーロッパ全土のマンガイベントに参加されているそうですが、特にマンガ熱の盛り上がりを感じる地域はありますか?

 フランスでマンガ人気があるのは、以前はパリやリヨン、マルセイユなど大都市だけだったけど、今はどんな小さな街に行っても必ずマンガがあるし、イベントも歓迎される。もはやマンガは流行りではなく浸透したといえるだろうね。

 ヨーロッパでいうと、ドイツがアツいよ!まだ翻訳されている数は少ないけど、この3~4年とても良い盛り上がりだね。ベルギーも活気がある。スイスもなかなか。二か国ともフランス語を使うから、フランスの出版社の翻訳マンガをそのまま流通させられるというメリットがあるんだ。あとはイタリア、スペインと続くかな。デンマークやスウェーデンといった北欧は難しいね。

――フランスでは今後もマンガ市場の変化、ポテンシャルがあると思いますか?

 新しい試みでいうと、出版社が何度かマンガの電子出版に挑戦したけれど、受け入れられていない。フランスでは価格も抑えたとしても、タブレットやスマートフォンでマンガを読むより、本になっているほうが好まれるんだ。値段は高くても美しい装丁など、コレクションとしての楽しみもある。フランスでは紙媒体は廃れないだろう。

 マンガ市場はこの調子でまだ伸びていくんじゃないかと思っている。TVでアニメ放映をすれば当たると思うんだけど……昔は番組もあったのに、もう長いことTVの主要チェーンではアニメを流していないんだ。

 ネットでアニメを見ることはできるけど、もともとマンガやアニメに興味がある人たちがアクセスして探しているというのが大半だろう。やはりTVのようなマスメディアで放映することで、初めてマンガやアニメを見出す人たちがたくさんいるはずだ。これからも更にマンガ・アニメファンを増やすことはできると思うよ。

マンガを「見出す」ということ

 コルドヴァさんはお話のなかで、マンガを「見出す」という言葉をよく使われていた。日本の個人空間重視のマンガカフェの在り方について、問いかけと新たな方向性をもらったように感じる。

 TVのアニメ放映の話でいうと、1978年に「クラブドロテ」という子供むけのTV番組で『UFOロボ グレンダイザー』と『キャンディ・キャンディ』が放映され、子供たちから絶大な支持を集めた。そこで日本のアニメが「見出」されてブームを呼んだからこそ、フランスでこれだけマンガが受け入れられたと言われている。マスメディアの力に期待したくなる気持ちもわかる。

 ちなみに『グレンダイザー』は、フランスでは「ゴルドラック(Goldorak)」という名前で絶大な知名度を誇る。放映40周年を記念し、2018年12月にクリスマスイベントと兼ねて、フランスのピュイ・ド・ドーム県に全長7m、重さ2トンの「ゴルドラック像」が建てられて話題になった。お台場のガンダムと是非いつか並べて頂きたいが、残念ながらゴルドラックは2月末までの期間限定だそう……。

(設置された巨大ゴルドラック像)

 話がそれた。私の体験としてだが、現在フランスの本屋では小さくても必ずマンガコーナーを見つけられる。図書館で借りることもできる。既にかなり成熟していると思われるフランスのマンガ市場において、この先いかに接点のない人に「見出す」場を用意できるかということなのだろう。

 コルドヴァさんが、フランスではスマホやアプリで読む電子出版マンガは通用しない、と明言されていたが、確かにメトロでは携帯をいじっている人は少なく(スリに合わないための治安面もあると思うが)、今もよく本を読む人たちの姿を目にする。

 ただ、外国に住む日本人にとっては、ネットを通じて読めるマンガというのは切実にありがたいものだ。マンガは読みたいが、輸入するとなったら時間も費用もかかる。パリのオペラには古書店のBOOK OFFがあり日本人の憩いの場となっていたが、2015年末に惜しまれながら閉店した。手ごろな値段で日本語の本やマンガが買えると重宝されていたが、聞いた話によれば売り上げの問題よりも、本を売る人がいなくなってしまったことが痛手だったとか。

 日本にいるときは私もフランス人同様に圧倒的に紙媒体派だったが、ある種の慣れでもあるように感じている。まだ新規ファンが少ないというネットのアニメ戦略と合わせて、電子出版がマンガを「見出す」場として新たな役割を果たす日もやってくるのではないだろうか。

「MANGA」が世界共通言語になる日とは

 今回「MANGA⇔TOKYO」展とマンガカフェを訪れてみたが、お客さんたちはマンガを特別なものではなく、もはや日常の身近なものとして受け入れているのだなと実感した。いずれもリラックスした空間であり、その客層は若者が多いものの、男女半々というところで偏りを感じさせない。

 マンガカフェでは時折イベントも行っているそうで「マンガを描いてみよう」というものもあれば「折り紙教室」といった古風なこともしているそうで意外だった。しかし、マンガ=日本文化、と考えれば決して不思議ではないのかもしれない。

 マンガを読みにではなく、ふらりと入ってきた買い物客がのんびり日本からの輸入商品をみている姿を横目に、私は季節限定のキャラメルコーンや大好きなプチシリーズに手が伸びたが、どうしても現地値段を知っていると高く感じてしまう。とはいえ、フランスには個人輸入までしている日本菓子ファンもいるそうで、そういう人たちにはとてもありがたいだろう。結局、私は友達のプレゼントにミニ風呂敷を購入した。マンガカフェで気の利いた日本のプレゼントが探せるとわかって嬉しい。
海外で人気のある「日本のモノ」としてお菓子、雑貨、に続いて、マンガ、という選択肢ができているようで、それを頼もしくも感じた。

 2018年2月にはパリ市庁舎で「浦沢直樹展」が開催されている。やはり日仏交流160周年という背景のなかで「パリ東京文化タンデム2018」という枠組があってのことだが、それでも「市庁舎」という市民一般に開かれた場所で、大々的に行われる無料の展示に「MANGA」が選ばれたというのは驚きだ。既に『20世紀少年――本格科学冒険漫画』などで人気の浦沢氏のリアルな画風は大人向けのBDに通じるものがあり、マンガに縁のない人にも受け入れられるという勝算があったのかもしれない。

 残念ながら私は当時日本におり足を運ぶことは叶わなかったが、訪れたフランス人の友達によると、500枚にもわたる原画展示に加え、マンガはどのように作られるのか、マンガ家の仕事とは……と素人から玄人まで楽しめるような、とても充実した構成だったという(以下掲載写真は友達より)。

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 まさに理想的なマンガを「見出」せる場であっただろうと想像でき、こんな機会があったパリジャンたちが羨ましい!


 これから4~5年を目処にフランス・アルザス地方のミュルーズ(またはミュルーズ近郊)に、ヨーロッパ最大の「マンガミュージアム」を建設しようというプロジェクトもあるとのこと。アルザス・欧州日本学研究所(CEEJA)が主体となっており、京都国際マンガミュージアムの在り方をモデル例として語っている。現状はあくまで机上のビジネスプランらしいが、元々はマンガフィギュアのコレクターが、そのコレクションを寄付して展示したいという申し出から始まったそう。確かに展覧会にもマンガカフェにもたくさんのフィギュアが販売されていた。

 コルドヴァさんが語られた、今マンガ熱のアツい、ドイツとスイスのすぐ近くに位置する街でもあり、実現すればフランスのみならず、ヨーロッパ諸国へのマンガ文化発信地になりえるだろう。

(ミュルーズ:マンガ美術館建設プロジェクト)

 フランスの日常に溶け込みつつある「MANGA」。日本のみならず海外でも、このリレー連載で語られている「同じ作品を読んでいる者同士の絆」を感じられるようになる日は遠くないように感じる。それは「MANGA」が本当の意味で世界の共通言語になる日だ……といったら大げさだろうか。

 そして「MANGA」という言葉が、海外特有の多様性をもって受け止められながら、私たちの想像を超える新たなベクトルをもって広がっていく可能性にワクワクしている。

[第四回 後編 了]

次回の更新もお楽しみに!


PROFILEプロフィール (50音順)

山口文子(やまぐちあやこ)

1985年生まれ。脚本家、歌人。2018年夏よりパリ在住。 広告代理店勤務を経て、東京藝術大学大学院映画専攻脚本領域を修了。映画や企業PVの脚本・企画に参加。夭折の俳人・住宅顕信を描く映画「ずぶぬれて犬ころ」劇場公開予定(5月17日~岡山・シネマクレール、初夏~東京・ユーロスペース)。 14~28歳までに詠んだ短歌をまとめた歌集『その言葉は減価償却されました』(角川学芸出版)上梓。短歌結社「りとむ」所属。パリ短歌クラブ会員。 マンガを介してコミュニケーションをはかる集団「マンガナイト」でも不定期活動中。