写真家・森山大道氏の代表的な写真集の一つ『新宿』(月曜社、2002年)を解体し、まるごと一冊コラージュの手法を用いて再構築した吉田昌平氏の作品集『新宿(コラージュ)』が、本とアイデアのレーベル・NUMABOOKSより出版されます。森山氏の写真の真骨頂が凝縮されているとも言える新宿の路上を“切り撮”った分厚い写真集は、1985年生まれの吉田氏の眼にどのように映り、どのような経緯を経てコラージュされるに至ったのか。本の完成目前のタイミングで収録した、吉田氏と森山氏の対談の模様を全2回にわたってお届けします。
●書籍『新宿(コラージュ)』の詳細はこちら。
聞き手・構成:小林英治
取材協力:森山想平(森山大道写真財団)、藤木洋介(BEAMS)
編集・写真:後藤知佳(NUMABOOKS)
〈2017年4月28日、森山大道写真財団にて収録〉
写真集『新宿』を丸ごと素材に
吉田昌平(以下、吉田):僕が最初に森山さんの写真をコラージュさせていただいたのは、去年の『BRUTUS』の森山さんの特集号(No.818「森山大道と作る写真特集」)の企画でした。あの号で僕は特別付録のタブロイド版〈Kingdom of MOROCCO〉のデザインを担当したんですけど、編集の方から「この森山さんの写真をコラージュしてみない?」とご提案いただいて、モロッコの写真をコラージュしたものをそのタブロイド版の中に一緒に入れたんです。
森山大道(以下、森山):はい、覚えてます。編集の杉江(宣洋)さんから「吉田クンっていう面白い人がいるんですけど、コラージュしてもいいですか?」って連絡をもらって、僕としては全然構わないから、「カッコよくしてよ!」って伝えたんです。
吉田:そうしたら、もっとやりたい、楽しみたいという欲が湧いてきて、「(『BRUTUS』の特集号が出た後も)コラージュを続けさせていただいていいですか?」とお願いしました。僕が初めて森山さんの写真集をしっかり見たのが『新宿』(2002年、月曜社)で、自分にとっても新宿は身近な街なので何か表現できると思って、この写真集を1冊丸ごと素材にしようと考えました。それでできたのが、今回Bギャラリーで展示される『新宿(コラージュ)』です(※本展覧会は、2017年5月19日〜6月4日に東京・新宿にて開催された)。普通なら自分の作品を切り刻まれて素材にされるのは抵抗ある方もいると思うんですけど、森山さんには快く許可をいただいて、本当に感謝しています。
森山:だって、写したものだって僕のものじゃないんだもん。一応、それを支えてるのは自分の意識とかいろいろあるけどさ、そうは言ったって、街はコピーされるだけだから。無限のコピーでどんどん街は変わっていくし、そこが面白いところなわけで。
コラージュとスナップの共通点
吉田:今回コラージュしてて、完成したと思って、ふと裏返してみると、裏がすごいカッコよかったっていうことがあったんです。
森山:裏っていうのはどういうことですか?
吉田:僕の場合は、台紙となる紙の上に素材を貼っていくのではなくて、小さい断片をつなぎ合わせていくので、同時に裏側にも別のコラージュができることになるんです。
森山:なるほど、そういうことか。
吉田:机の上にどんどん乗せていく感じなので、厚みもあります。そうやって偶然にできあがったものがいくつかあって、すごくいいなと思ったんですね。森山さんも写真を撮られる時に、思ってもいなかったものが写ったりとか、偶然を大切にされたりしていますか?
森山:もちろん。僕の場合はほとんどが路上スナップだから、むしろ偶然に会いに行くわけ。そうじゃないと面白くないよね。例えば新宿を撮りに行こうと思ってこっちで勝手にイメージを決めて行ったって、街は簡単に裏切るから、思ったように写ってはくれない。街は毎日生きてるわけで、同じような風景でもディテールがすべて違うじゃない。その時のこっちの気持ちの違いもあるしね。だから街の気持ちとこっちの気持ちが上手くショートした時は、不思議なものが撮れる。
吉田:むしろすべては偶然の産物なんですね。
森山:ただ、偶然と言っても、やっぱりこっちの中のどこかにある種の必然を持ってないといけないよね。それは一つや二つの必然じゃなくて、僕の経験とか身体の中にあるいろんな必然みたいなもので、それをベースにカメラを持って行くと、偶然に出会う。そういう感じよね。だから、偶然性というのは、ストリートの写真にとっては、ほとんど生命みたいなものです。まあ、なかなか上手くいかないんだけどね。そういう時は、ただ歩くわけ。途中で珈琲飲んだりしてさ。
吉田:その偶然は、写真を選ぶ段階にもありますか?
森山:だいたい「あ、いいかな」と思ったものって、意外に良くないんです。僕は特にシャッターの数が多いからいちいち覚えてないけど、選ぶ時に「ちょっと今の何だったっけ!?」っていうのがあるよね。それは、もう一度街を歩き直している感覚なんです。例えば今日、半日歩いたとして、帰ってきてから、今はデジタルだからそれを全部ベタ焼きみたいにデータを作ってもらって、モニターで見せてもらうわけ。そこにあるのはもちろん自分が撮ってきた街なんだけど、実際はもう撮った時とこっちの意識も場所も違うわけだから、モニターの上でもういっぺん歩き直すことになるんです。そこにまた偶然の出会いがある。
吉田:実は、僕もコラージュをしてる時は、森山さんの写真の上でストリートスナップをしてるような感覚だったんです。一瞬一瞬、パッと思ったところをパッと切って、パッと貼るみたいな。その作業がすごく楽しくて。
森山:吉田さんの『新宿(コラージュ)』は、やっぱり圧倒的にスナップだよね。僕の写真に共鳴してとかじゃなくて、僕の写真を単なる資料というか外界として見て、その中で自分の感じるところをパッパッパッと切ってくわけでしょ。それで完全に吉田さんの視線で見た「新宿」を作っていく。だから行為としては、基本的にはスナップとまったく同じだと思います。そうすると街は、二度も三度も生き返ることになるわけ。僕に撮られた時にあった街と、今度吉田さんが新たにコラージュして構築した新宿の街は別のもので、ある意味どんどん変容していく。
吉田:「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」という森山さんの有名な言葉がありますよね。僕はあれがすごく好きなんですけど、写真集の『新宿』を見た時にそういう気持ちみたいなのが起こって、知ってるはずの街が何か新しく感じたんです。
森山:「過去から教えられる」とかいう言い方があるけど、そういうふうに考えてもしょうがないんだよね。そうじゃなくて、過去が戻ってきて未来まで行っちゃうかもしれない。意識の中では過去も未来もノンリニアに錯綜してるわけで、循環みたいなのが起こったりもする。
[後編「コラージュが一瞬で終わる時の方が、美しいと思うことが多い気がします。」に続きます]
(2017年6月7日公開)
吉田昌平
『新宿(コラージュ)』
写真:森山大道『新宿』(月曜社、2002年)
森山大道の代表作『新宿』を解体、
全ページを使い再構築した
〈もうひとつの新宿〉。
出版社:NUMABOOKS
ブックデザイン:吉田昌平(白い立体)
プリンティングディレクション:熊倉桂三(山田写真製版所)
ISBN:978-4-909242-00-6
仕様:w182×h247mm/256p/スリーブケース入り
初版限定シリアルナンバー入り
価格:5,800円+税
発売日:
2017年6月8日(木):一部書店(取扱店舗は下記参照)にて先行発売開始
2017年7月3日(月):全国書店にて一般発売開始
『新宿(コラージュ)』特設ページ:
http://numabooks.com/shinjukucollage.html
[『新宿(コラージュ)』先行発売 取扱店舗一覧]
本書にいち早く注目する一部書店にて、2017年6月8日(木)より限定先行発売が行われます。
〈岩手〉
Pono books and time(盛岡)
〈宮城〉
カネイリミュージアムショップ6(仙台)
〈東京〉
銀座 蔦屋書店(銀座)
代官山 蔦屋書店(代官山)
二子玉川 蔦屋家電(二子玉川)
Nadiff a/p/a/r/t(恵比寿)
SHIBUYA PUBLISHING AND BOOKSELLERS(渋谷)
本屋B&B(下北沢)
〈愛知〉
ON READING(東山公園)
〈京都〉
誠光社(河原町丸太町)
京都岡崎 蔦屋書店(岡崎)
〈大阪〉
梅田 蔦屋書店(梅田)
〈香川〉
BOOK MARUTE(高松)
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