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【緊急寄稿】ロックダウン下で書店はどう生き残るか

 イギリスでは、3月24日から、新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するため、食品や生活必需品以外のものを売る店舗は一律休業となった。書店も例外ではない。今年1月にはブックセラーズ・アソシエーション(全国書店協会、BA)が、2019年まで過去3年連続でイギリス国内の独立系書店の数が増えたことを報じたばかりだった。盛り返しを見せていた業界にとって、大きな痛手となっている。
 一方で、イギリスの国民保険サービス(NHS)は、家にいる間、精神の健康を保つことが大切だと国民に呼びかけている。読書は、NHSが勧める活動の一例だ。
 この機会に本を読みたいと思っている潜在的な読者をいかに発掘し、アマゾンではなく書店で買ってもらうにはどうすれば良いか。それが、出版業界、書店業界の緊急課題となっている。
 BAは、書店向けのヘルプラインを特設するとともに、各書店にさしあたってオンライン販売に力を入れるよう勧めている。そして、本の引き渡し方法としては、書籍仲介業者であるガードナーズ・ブックス社(通常は出版社から書店への卸と配送を担当している)が、個人顧客の自宅への宅配を代行して行っていることを知らせ、ガードナーズ・ブックス社が扱っていない本の場合は郵送するように書店に呼びかけた。しかし、その後3月31日にはガードナーズ・ブックス社が休業を発表。現在のところ、同社の配送代行の道は断たれている(付記:その後1回1冊までの郵送による宅配代行を再開)。
 政府が求めている「ソーシャル・ディスタンシング(他人と社会的距離を取ること。イギリスでは2メートル)」が実行できない恐れがあるとして、BAでは顧客の自宅まで届けに行くことは推奨していない。
さらにBAでは、書店員、及び書店オーナーに対する補助金制度を発表した。その資金は、作家、出版社、個人、またブック・トレード・チャリティー(1837年設立のチャリティー団体で、書店員の生活を保証するために活動している)の寄付金で賄われるという。
 
 いくつかの書店は、オンライン販売を行うだけではなく、この非常事態だからこそ、地元のコミュニティーに役立つ「街の本屋さん」としての姿勢を強調し、電話やメール、それにSNSを通して活発に営業を続けている。
 南ロンドンのペッカム地区にあるレビュー・ブックショップは、政府の命令よりも1週間早く、3月17日に実店舗の閉鎖を発表した。最後まで営業を続ける書店がほとんどだっただけに、結果的に先駆けとなった。お客が2人も入れば満員となるくらい小さくて、間口が狭く窓のない店だという事情が影響していたのかもしれない。当日、顧客たちに送られたメールは下記のようなものだ。
 「このメールは始まりは悲しげですが、だんだん面白くなります。パンデミックの影響下で、店はこれからどうなるのかと心配し、店への協力を買って出てくださった心優しい方々が何人もいらっしゃいます。長期間検討を重ねましたが、4月1日まで(筆者注:その後の政府命令により、無定期での休業となった)、安全のため休業を決めました。今後2週間ほどは重要な局面となるでしょうし、この間、店を消毒し、将来の計画を立てたいと考えています。
 実店舗が閉じる間も、私たちは営業を続けます。(よかった!) 本をお探しの方、おすすめの本を知りたいという方は、営業時間内に電話かメールをください。店でのピックアップのほか、自己隔離中、またはご希望の場合はお届けも承ります。ちょっと退屈なメールになってしまったので、すばらしい新刊についてのお知らせで締めくくります」。
メールはこのあと、同店の共同経営者で店員もしている作家、イーヴィー・ワイルドさんの新作『The Bass Rock』を筆頭に、今後出版される3冊の小説を紹介している。そして、締めくくりは「本の文化はみなさんのおかげで繁栄を続けるでしょう。みなさんは素晴らしいコミュニティーで、その一部でいられることに、レビューの一同は心から感謝しています。愛を込めて」。
 差出人は、オーナー2人と書店員、そしてオーナーの飼い犬の名前だ。同居家族以外には会えないという非常事態だからこそ、コミュニティーの結束を感じたいという人たちの心に訴えるような内容となっている。さらに、3月25日には、イーヴィー・ワイルドさんが「今週、私の新作が出版されます。本当は出版イベントに使うはずだったお金を、チャリティーに寄付することにしました。皆さんもよかったらどうぞ」とツイート。店のアカウントからもリツイートされ、クラウドファンディングではすでに目標額を遥かに超える1500ポンドを達成している。同居していない限り家族や友達にも会えない現在の状況の中、作家や書店を中心としたコミュニティーの結束を呼びかけ、多くの人に支持を集めたのだ。

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 別の例として、ロンドン郊外リッチモンドにある児童書専門書店、アリゲーターズ・マウスを紹介したい。3月23日午後(政府が店舗休業を命じる発表をした数時間前)、実店舗の閉鎖を決めたことを発表すると同時に、こんなメールを送って、やはり顧客たちの心をつかんだ。
 「私たちはコミュニティー書店です。この困難なときにもみなさんのために営業を続けます。ただし、さしあたって実店舗を閉じるという苦渋の決断をしました。スタッフとお客様の安全を第一に考えてのことです。
ここで朗報です。これからも当店でのお買い物はお楽しみいただけますのでご安心ください。メールで注文を受け付けますし、おすすめの本のお問い合わせにも応じます。ご希望なら喜んでこちらからお電話して、お客様の近況を伺い、人生における大切なこと−すなわち紅茶、ビスケット、それにもちろん本について、私たちが考えていることをお話します。当店で用意している本は、お客様とお子様の気分を高め、人生を豊かにしてくれるでしょう。今ほど、人々に本が必要とされているときはありません。そして、私たちは本のプロフェッショナルです。
 ご安心ください。私たちは営業を続けますし、私たちの素晴らしい、人気者のスタッフたちは経済的に保証されています」
 メールはさらに続き、ギフト券を買うことで店をサポートしてほしいと呼びかけている。このギフト券は通販では使用不可、実店舗が再開したら使えるというものだ。「この困難な時期に店をサポートしていただけるすばらしい方法」と店は説明する。ギフト券は15ポンドから用意されている。購入特典として、1枚買うごとに、イギリス内外で大人気の絵本作家、アクセル・シェフラー氏の原画やサイン本が当たるくじに応募できる。
 現在のところ、ネット販売の本の引き渡し方法としては、近所なら書店員による宅配、休業中の店舗でのピックアップも受け付けているという。現在イギリスでは、「運動」での外出は認められているため、「書店員がエクササイズのランニングやウォーキングを兼ねて本を運んで、ドアの前に置いて行き、ソーシャル・ディスタンシングは確保する」と店では説明している。
 また、同店では以前から、書店員の知識を生かして、子どもの年齢や好みに合わせた本の頒布会と、「物語」「詩」「思想」「店が勧める新作」の4テーマ別のセット販売を行っている。店は改めてこれらを利用者の絶賛する声とともに紹介し、利用を呼びかけている。ロックダウン中は同居していない家族とも会えないので、遠くに住む孫にプレゼントを贈りたいという祖父母にも喜ばれそうなサービスだ。
 いつもは店内で行っている読み聞かせや著者イベントについては、ストリーミングによって続行する計画がある。毎週コミック作家が子どもたちを集めて指導しているコミッククラブは、かき込み式の課題シートをP D Fで送信した。このシートは店のウェブサイトからもダウンロードでいる。仕上がった作品はメールで送ると、コメントとともに同サイト上で発表される予定だ。
 メールは「ご支援ありがとうございます。新しい働き方への移行期間中、さらにアップデートを続けていきます。どうぞご無事で。皆さんへの愛を込めて。アリゲーターズ・マウス一同」と締め括られていた。

alligatorsmouth
 店のファンからの反響は大きかった。3月26日には、「近く、あるいは遠くにいるお客様へ。みなさんから寄せられた優しさ、応援の声、そして私たちの店から本を買いたいというお気持ちに、圧倒されています。ありがとうございます。新しい働き方に移行中ですので、どうぞご期待ください。本が必要なら、メールをください。一同」というツイートを流した。
 
 また、ロンドン市内に6店舗を展開する有名独立系書店ドーント・ブックスは、3月19日からオンライン販売を開始。近所なら購入価格に関わらず、またイギリス国内なら40ポンド以上の購入で配送料無料としている。ウェブサイト内には「自己隔離中のお供に」というページを開設し、書店員が名前入りで自分の得意分野のおすすめの本を紹介。また、サイトにない本についてもメールでの注文を受け付け、店に在庫がある本なら発送するとしている。
 終わりの見えないロックダウンに突入してから、どの書店も手探りでの試みを始めたばかりだ。価格や配送などの課題を乗り越え、「こんな時だからこそ、本が読みたい」「あえてアマゾンではなく書店から本が買いたい」という人々の思いをいかに取り入れられるか。ロックダウンは、デジタル時代の書店のあり方が問われる正念場とも言えそうだ。

[【緊急寄稿】ロックダウン下で書店はどう生き残るか 了]


PROFILEプロフィール (50音順)

清水玲奈(しみず・れいな)

東京大学大学院総合文化研究科修了(表象文化論)。1996年渡英。通算10数年のパリ暮らしを経て、現在はロンドンを拠点に取材執筆・翻訳・映像制作を行う。著書に『世界の夢の本屋さん2・3』『世界で最も美しい書店』『世界の美しい本屋さん』、訳書に『インドのけもの』『人生を変えた本と本屋さん』など。作家 辻仁成主宰のウェブ媒体 「Design Stories」でエッセイ連載中。