気鋭のクリエイターを月替わりで起用し、本/読むこと/書くこと/編むことにまつわるグラフィック作品を展示する「DOTPLACE GALLERY」。
2018年11月期の担当は、イラストレーターのカナイフユキさんです。自らの表現者としての言葉を奪われてきた、モダニズム作家の「妻や愛人たち」について綴られた文章をまとめた『ヒロインズ』(C.I.P.Books)の装画も記憶に新しいですが、こちらのビビットな背景に彩られた、本を読む若者のまなざしからは、どんな想いが感じられるでしょうか。読み応えあるインタビューと併せてお楽しみ下さい。
カナイフユキさんに聞きました
——どのようなイメージまたはコンセプトで今回の作品を制作されましたか。
先日発売された『i-D Japan No.6』に掲載された松田青子さんの短編『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』に登場したウィノナ・ライダーに触発され、彼女の髪型や服装を真似していた自分の思春期を思い出し、男の子のような女の子のような、その境界を越境しようとしている若者を描きたくなりました。
この人が手にしているのは、クリス・クラウス著『アイ・ラヴ・ディック』です。クラウスは、少し前に僕が表紙イラストを担当した『ヒロインズ』(ケイト・ザンブレノ著/翻訳・西山敦子/c.i.p.books)の原書の編集者であり、版元の主宰者でもあります。
「女性からの異議申し立て」の系譜につらなる彼女たちに敬意を表しつつ、自分もちょっと参加したいという気持ちを込めて描きました。
——普段、作品制作の上で重視していることは何ですか。
見る人にとって押し付けがましくないものになるよう心がけています。
人物の表情や、静物の造形など、描きすぎて想像の余地がなくならないように気をつけています。
手描きの場合はキャンバスにアクリル絵具か紙にボールペン、デジタルの場合は今回のようにphotoshopで描いています。
——カナイフユキさんにとって大切な本を1冊挙げるとしたら何ですか。
レベッカ・ブラウンの『若かった日々』です。
僕はイラストだけでなくZINEの創作にも力を入れていて、その中で文章を書くことも多いのですが、そのきっかけになったのがこの本で、文章を書くときはいつも頭の片隅にあります。
皮膚や身体の描写、記憶のねつ造や再生、家族との思い出を書くこと、そして何よりクィアという立場から文章を書くことなど、様々な点で影響を受けました。
——今後のご活動について何かございましたらどうぞ。
2015年から1年に1冊出してきたZINEのシリーズ3部作があるのですが、それを1冊にまとめた本を今年の12月に刊行予定です。
12月15日から、この本の制作にご協力くださった学芸大学の書店・SUNNY BOY BOOKSさんで刊行に合わせた個展を開催予定です。
[DOTPLACE GALLERY #050: カナイフユキ 了]
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