マンガナイト代表・山内康裕さんが、業界の内外からマンガを盛り上げる第一線の人々と議論を展開した全11回の対談シリーズ「マンガは拡張する[対話編]」が、数ヶ月の沈黙を破り、パワーアップして再始動。渋谷に昨年オープンしたマンガサロン『トリガー』を舞台に公開収録した白熱の連続鼎談の模様を、DOTPLACEではほぼノーカットで掲載します。
第1回のゲストは、2014年にコアなマンガファンから惜しまれつつも休刊となった小学館『IKKI』の創刊編集長であり、小学館を退社した現在はブルーシープ株式会社を立ち上げた江上英樹さんと、講談社入社から現在に至るまで22年間『BE・LOVE』編集部ひと筋で、現在は『ITAN』とも編集長を兼任する岩間秀和さんのお二人。「編集長」という立場だからこその葛藤や喜び、そして単行本で回収するビジネスモデルが主流である現在の「マンガ雑誌」の存在意義についてなども存分に語っていただきました。
●連載「マンガは拡張する[対話編]」バックナンバー(全11回)はこちら。
[前編]
同じ雑誌でずっと編集長をするって珍しいんですか?
山内康裕(以下、山内):今回は「マンガは拡張する」公開収録@マンガサロン『トリガー』の第1回ということで、「編集者とは?」をテーマに、元『IKKI』編集長の江上英樹さん、講談社『BE・LOVE』、『ITAN』編集長の岩間秀和さんにお越しいただきました。お二人ともマンガ誌の編集長経験者ということで、今回は編集長対談でもあります。よろしくお願いします。まずはお二人から簡単な自己紹介をお願いします。
江上英樹(以下、江上):僕は小学館に入って最初の2年くらい、オーディオ雑誌の編集にいたんですが、それから『ビッグコミックスピリッツ』という雑誌に移りました。まだ隔週刊のころですね。しばらくして週刊になって、結局18年くらいそこにいました。その後『ビッグコミックスピリッツ』の増刊という形で2000年に『IKKI』をスタートさせました。2003年2月には独立創刊して月刊誌に。僕は創刊から編集長を務めていたんですが、雑誌は2014年の9月で最終号になってしまいました。それと関係が……なくはないんですが、10月末で小学館を退職して、翌2015年4月に「ブルーシープ株式会社」という新しい会社を立ち上げました。ただ、今でも『IKKI』時代に担当していた松本大洋さん、中田春彌さんの担当はフリー編集として続けていて、編集長ではなくなりましたが現場の編集者に戻った、という感じで仕事をしています。
山内:『IKKI』では創刊から最終号までずっと江上さんが編集長ですよね。同じ雑誌で10年以上編集長をやることって多いんですか?
江上:あまりないと思います。まぁ自分で創刊した雑誌でもあるし、マンガ雑誌としても特殊だったということもあって。やりたい人もいなかったんじゃないかな(笑)。「誰かと交代を」という話も、ありがたいことですけど、なかったんですね。
山内:『IKKI』は江上さんの色が出た雑誌ですよね。
江上:そうですね。そうなってしまったと思いますね。細かい話なんですが、『IKKI』の編集部には小学館の社員が2人しかいなくて、あとはみんな僕が声をかけたフリーランスの人にやってもらっていたんです。本当はそういう人たちがどんどんベテランになっていく中で、誰かが編集長になってくれたら、という思いもあったんですよね。ただ、そうはならずに雑誌も終わってしまったから。そういう中で雑誌とか編集体制とか、いろんなことを考えましたね。
山内:今は旧『IKKI』編集部の方が中心になって、『ヒバナ』(2015年3月創刊)を作っているんですよね。
江上:そうですね。ただそこは難しいんですが、『IKKI』と『ヒバナ』が同じだったら雑誌を変える必要はないので、ある意味では「僕の色を消したほうがいい」と僕自身も思ったし、『IKKI』とは違うことを示さないといけないと思って、僕は『ヒバナ』には関わっていないんです。もちろん心の中では応援していますけどね。
山内:ありがとうございます。
では続いて岩間さんお願いします。
江上:実は岩間さんとは今日初めてお会いするんですよね。
岩間秀和(以下、岩間):そうなんです。でも江上さんが担当されていたマンガはほぼ読んでいます。僕、30年来のスピリッツ読者なんですよ(笑)。「サルまん」(『サルでも描けるまんが教室』/相原コージ、竹熊健太郎)とか「伝染るんです。」(吉田戦車)とかも雑誌で読んでいました。
僕は講談社に入って今年で22年目です。講談社の中でも珍しいと思うんですが、ずっと『BE・LOVE』編集部から異動したことがないんです。なんとなくここまで来てしまったんですが、その中で2010年に『ITAN』という雑誌の立ち上げに関わって、その後創刊編集長から編集長を引き継ぎました。両誌は対極の作りをしているなという気がしていて、それぞれの仕事をすることで僕自身のバランスもとれていると思います。
山内:編集長を掛け持ちするようになったのはいつごろなんですか。
岩間:2012年からですね。
山内:2誌で同時に編集長をするって、どういう働き方なんですか。
岩間:あまり2誌半々ずつ、という形でもなく、基本的には『BE・LOVE』編集長としてやっています。ただ、『ITAN』をやることでさらに新しい出会いがあるんです。新しい作家さんやこういう作品を面白がってくれる読者がいるんだ、ということを日々感じながら働いています。たとえば今度、コミティアで「即日新人賞」という企画をやらせてもらうんです。その場で選考をして、その場で新人賞受賞作まで決めてしまう、という企画で。そんなやんちゃなこともやらせてもらっていて、そういう経験が『BE・LOVE』に影響して、それがまた『ITAN』に影響して、と。分けて考えるというより、二つあるからいいんだ、という気がしています。
江上:編集部のメンバーは、2誌で完全に共通なんですか?
岩間:共通です。各部員がそれぞれの雑誌でそれぞれの作家さんを担当しています。
月刊誌か週刊誌か ――刊行ペースと編集の関係
江上:さっきイベント前に『BE・LOVE』の編集部員の人数も減っているというお話を聞いたんですが、そんな状況の中で2誌作るのって大変じゃないですか。
岩間:大変かと聞かれると……大変なんですけど(笑)、物量的には。今って女性マンガ誌で隔週刊行のものってかなり少ないんですね。前は結構あったんですが、どんどん月刊、隔月刊化していて数が減っているんです。その中で『BE・LOVE』はまだ月2回刊なんですよ。それに『ITAN』が隔月刊。だから楽ではないです。僕が編集部に入った1993年は今の倍の部員がいたので、それを考えると、みんながんばってくれていますね。
山内:月刊誌を二つやるより、隔週と隔月の2誌のほうがバランスがいいんでしょうか?
岩間:うーん、どうでしょうね。隔週誌をやっていて一つ大変なのは、「合併号」が作れないことなんですよ。隔週誌は合併すると事実上月刊誌になっちゃいますから、さすがにそれは(笑)。だからお盆とか年末、まったく休みがないんです。12月なんか3冊校了しないといけない。そりゃ週刊誌の編集部の方はもっと大変だと思いますけどね。
山内:江上さんは週刊の『ビッグコミックスピリッツ』から月刊の『IKKI』に移られましたよね。月刊と週刊の違いは感じましたか。
江上:月刊誌に慣れてくると、昔はよく週刊でやれていたな、と思いますよ。週刊だと前の号とその次の号の編集作業が重なって、作家さんによっては周回遅れも発生するから(笑)。今何をやっているかわからない、というか。すごい世界ですよね。それなりの高揚感もあると思うんだけど、一回離れてしまうと……。
岩間:若いころに仲間と一緒に、みたいな勢いのある雰囲気なんですかね。
江上:そうかもしれないですね。
山内:作家さんのスタンスも違いますか。
江上:『IKKI』を作ったときに感じたんですが、男性向けマンガはやっぱり週刊誌がメインフィールドになっているんですね。週刊連載ができて作家としては一流、という風潮もあったと思うんです。でもある時期から、もっと個人的なペースで描く作品が増えてきた。フランスのマンガのように1年かけてゆっくり40数ページを描くという世界もありますけど、そこまでいかないにしても月刊誌くらいのペースで描いていく作家もだんだん増えてきたんです。
岩間:マンガ誌全体が月刊ペースになってきている、という風潮は感じますね。女性向けマンガもそうなんですよ。今は月刊ペースが基本なので、たとえば『BE・LOVE』で連載をお願いしたときに作家さんから、「隔週ですか……」という反応をいただくこともあって。飛び飛び連載だと、どうしても毎号連載作品に比べ、読者に定着するのに時間がかかるんです。そこは悩みどころですね。
山内:一読者として見たときに、特に子どものころって、毎週新しいマンガが読めることへの高揚感ってありますよね。ただ、だんだんマンガを読むのが雑誌じゃなくて単行本になってくると、「月刊誌でもいいかな」と思ってしまう気持ちもわかります。
江上:『ビッグコミックスピリッツ』のときは、収録できる数よりもはるかに多くの連載を抱えていて、もうどれが休んでいるかわからない状況になっちゃっていたんですね。『モーニング』とかもそうだと思うんだけど、そういう状況が雑誌にとってあまりいいことじゃない、と僕は思っていたんです。でも思いながらも、そうならざるを得ない状況もあって。それは読者が単行本中心になったことと繋がっているかもしれないですね。週刊誌や隔週誌を成立させるって本当に大変だと思います。「隔週だから描けない」という作家さんも実際にいたわけですものね。
岩間:実際に今描いてくださっている方もそう思っているかもしれないんですが(笑)。隔週、つまり毎号描いてほしいという気持ちは、正直あります。やっぱり2週間に1回くらいは新しい話を読まないと前話の内容を忘れてしまう、というか。雑誌でもなるべく「あらすじ」を入れるようにして、読者と前の話を共有しやすいようにしてはいますが……。人間の記憶持続力を考えると、自分としては隔週がちょうどいいペースなんじゃないかと思っているんですが、どうやらトレンドとは乖離しつつあるのかな、と。でも僕はまだ隔週でやっていきたいんですよ。
雑誌には「できたての原稿の熱量」を詰め込みたい
江上:『IKKI』は月刊誌だったんですが、毎号初めて読んだ読者が楽しめるように心がけていて、第何話から読んでも、主人公の名前がわかったり、話の流れがわかったりするようにしていました。たとえば、物語の中でも「呼ばなくていい場面」で、多少不自然でもあえてキャラクターに名前を呼ばせてみたり。ただそういうやり方って、やっぱり作家の方と議論になるんです。それでもお願いしていたんですけど、単行本単位で、単行本1冊が問題なく読めれば連載はそこまで新規読者に親切にするべきじゃないのかなって、だんだん自分でも思えてきてしまって。『IKKI』をやっている10数年の中で「やっぱりもう単行本なんだな」って。雑誌をちょっと諦めてきた部分もあったんですよね。
岩間:そこは読者の違いもありますよね。『IKKI』の読者さんは単行本中心の方が多いと思うんですが、『BE・LOVE』は今年で創刊35年で、びっくりすることに創刊時から雑誌で読んでくださっている方も非常に多くて。そういう方にはもちろんですが、新しい方にもなるべく丁寧に入りやすく作っていくことも必要だという気がしています。
山内:『ITAN』はどうですか。こちらは単行本派の人が多いような気がするんですが。
岩間:今のところは単行本の売り上げが大きいですね。ただ、雑誌には「できたての原稿の熱量を詰め込みたい」という気持ちがあって、大切にしたいと思っているんです。
価格を下げてでも雑誌を読んでもらいたい
岩間:実は『ITAN』は26号まで990円だったんですが、8月発売の27号から540円に下げました。これがいいのか悪いのかはわかりません(笑)。多少ページ数を減らしましたが、充実した中身のままで価格を頑張ってみたんです。990円って雑誌としては高いのでずっと気になっていて、今回思い切って下げました。
山内:大胆なやり方ですよね。
江上:気持ちはわかります。『IKKI』もはっきり言うと発行部数はかなり少なかったんですね。定価はだいたい550円から600円くらいの値段だったんですけど、極端な話「タダ」でも変わらない。「タダ」でも600円でも1,000円でも、結局雑誌は赤字なんですよ(笑)。
山内:ええっ!?
江上:書店さんに売ってもらうことを考えると「タダ」はないにしても、『IKKI』では逆に、高くても買ってくれる人は買ってくれるだろうから1,000円にしないか、というアイデアもあって。
岩間:それはよく言われていました。僕は990円が高いとずっと思っていたんですけど、江上さんがおっしゃった通り、このジャンルのマンガは値段が高くても買う人は買う、ということがずっと言われていて、僕も踏みとどまっていたんです。でも990円って単行本が2冊買えますから、それってどうなんだ、と。
江上:すごいですね。極端に見えるけど、ここまで下げないと意味がないですね。
岩間:そういうことをしてでも読んでいただきたい。単行本を買ってくれるのはすごくありがたいんですが、マンガ家さんは〆切に向けてすごく頑張っているので、「できたての熱量」で読んでほしい。統一感があるようでない、というのも『ITAN』のいいところで、雑誌で読んでお目当ての作家以外に新しい作品が見つかるといいな、と。雑誌を買ってもらえることで、この値段だったら試してみたいという人も増えるんじゃないかな、と。
江上:じゃあ最新の号は「勝負号」ですね。
岩間:そうなんです。勝負ですね。『ITAN』はとにかく部員みんなが「毎号何か話題を振りまきたい」と言っていて、値段が安くなることは単純にポジティブなことではないと思うんですが、読者の方に「こんなことをやっているんだ」と伝える一つの方法でもあって。
実際に500円なのがウリなんじゃなくて、新しい連載や、アニメ化される「昭和元禄落語心中」(雲田はるこ)の声優の関智一さんへのインタビュー記事が載っていたり、そっちも見ていただきたいというのが本質なんです。
「書籍」扱いにしてバックナンバーも置いてほしい
江上:『ITAN』って書店では「書籍」扱いですよね。逆に『IKKI』は「雑誌」扱い。書籍にするべきか、というのも検討したんですよ。判型も『ITAN』(A5サイズ)くらいにしたらどうか、とか。実際にやられていてどうですか。
岩間:当初、「書籍」扱いにしたのはバックナンバーを置いてほしい、という理由がありました。書籍であればバックナンバーが置きやすいので[★1]。
★1:雑誌と書籍は流通方法が異なり、雑誌は「返品期限」が定められているが、書籍は長期販売が可能なためバックナンバーを置きやすい。反面、全国発売日の統一が難しい、などデメリットもある。
江上:でも、すでにかなりの号数になっていますよね。
岩間:最新が27号です(※2015年8月時点)。いくらなんでも、27冊全号分置いてくださる書店はほぼありません。だから今回のリニューアルで「雑誌」にするかどうか、という時期でもあったんですが、バックナンバーだけじゃなくて、雑誌なのにカバーが付いていてカバー裏にも何か載っているとか、そういう部分も『ITAN』の特徴だと思っていて、しばらくは書籍のままでいこうと思っています。バックナンバーも全号置いてもらえなくても、直近の数冊だけでも置いてもらえれば嬉しいですね。
マンガも編集もユニセックスになってきている
山内:雑誌の読者層はどうですか。『BE・LOVE』の読者はほぼ女性だと思うんですが、『ITAN』には男性読者もいますよね。
江上:そうなんですか?
岩間:それでも、基本的にまだ女性読者が多いですね。『ITAN』は20代のマンガ好きな女性をターゲットにしています。ただ単行本になると「昭和元禄落語心中」や「テンペスト」(阿仁谷ユイジ)とか、そういった作品には男性読者がかなり入っているという気がします。
山内:僕もまだ女性マンガ誌は書店で買いづらいんですが、『ITAN』の単行本は男性でも買いやすい装丁になっているような気がします。
岩間:ユニセックスな装丁は心がけていますね。
山内:そうですよね。僕、『ITAN』なら雑誌も買えます。『BE・LOVE』はまだちょっと恥ずかしいかなって(笑)。男性に手に取ってほしい、という意識はあるんですか。
岩間:特別な意識はないんですが、「装丁買い」というものがある時期から重視されてきたことも影響してます。講談社のマンガって、ある意味では「野暮ったい」感じの装丁が多かったんですが、意識していろんなデザイナーさんに頼み始めたのが10年前くらいです。『BE・LOVE』は途中から単行本の装丁にもかなり力を入れるようになりましたが、『ITAN』は創刊のころからすでにそういう流れの中にいたんです。
山内:『IKKI』は男性も女性も読んでいますよね。
江上:そうですね。アンケートだと男性と女性の比率が2:1、あるいは3:2くらいでしたね。若い層では女性はさらに多かったですね。
岩間:男性マンガ誌はもとから女性の読者がすごく多いですよね。
江上:それこそ新創刊の『ヒバナ』は、分類は青年誌だけど女性にも読んでもらいたい、という意識が最初からあると聞いています。
山内:創刊号の表紙を飾った東村アキコさんとか、描いている作家さんも女性の方々が少なくないですよね。
江上:『IKKI』も気がつくと女性作家が増えていて、あるときなんか、男性だと思って会いに行ったら女性だったこともあって。
岩間:逆に女性向けマンガに男性の作家はなかなか入ってこないですよね。『ITAN』には何人か男性の作家さんがいらっしゃるんですけど、やっぱり女性の方が圧倒的に多くて。
山内:ちなみに編集部の男女比率はどのくらいなんですか。
江上:『IKKI』は男性の方がちょっと多い、くらいでしたね。
岩間:『BE・LOVE』は11人の部員がいるんですが、そのうち男性は3人。だから8:3で女性の方が多いですね。最近男性が1人増えて3人になって、ちょっと男性が巻き返した感じで(笑)。
江上:適正な比率はどのくらいだと思いますか。
岩間:やっぱり女性が多い方がいいと思いますね、女性のマンガですから。ただ僕が入ったころの『BE・LOVE』は男女半々くらいでしたね。でも女性の方が編集者としては圧倒的に優秀で、僕はそういう人たちに学んできたので(笑)。だから今くらいの比率が適正かなと思っています。
山内:編集長は歴代男性なんですか。
岩間:いえ、僕の前の2人の編集長は女性なんです。僕が久しぶりの男性編集長ですね。どちらがいいかはわからないですけど。僕は女性のことでわからないことも多いので、女性の編集者に聞いたりもしますし、女性の力が絶対に必要なジャンルだと思います。小学館は女性編集長が多いんですか?
江上:少年誌だと皆無ですし、青年誌もほとんどいないですね。でもいずれ出てくると思います。『IKKI』は結果的にですが女性作家が多くなったので、女性作家には女性編集者がついた方がいいんじゃないか、と思うときもありました。その流れは必然なんじゃないかと思いますね。
岩間:男性誌なんだけど女性作家が書いている。そういうフェミニンな作品も増えてきて、読者がどう思っているか知りたいところではありますね。さらに、その中でどう差別化していくか。『ITAN』みたいなジャンルって今増えてきていると思うんですが、そこでどう差別化していくのか。なかなか難しいなと思っています。
「現場の編集者」と「編集長」の働き方の違い
山内:今日はお二人とも編集長経験者なんですが、「編集者」と「編集長」の違いってどういうところにあるんでしょうか。
岩間:実は僕、編集長になってから担当を持っていなかったんです。でも前号から久しぶりに担当を持つことにしました。編集者としてマンガの打ち合わせのやり方を忘れてしまった部分もあって(笑)。
山内:編集長になる前はもちろん担当を持たれていたんですよね。どのくらいの作家さんの担当だったんですか。
岩間:実際に描かれている作家さんだと10人くらいの担当をしていました。仕事の時間の大半は打ち合わせと取材にかけていたんですが、編集長になったらそれがまったくなくなってしまって。1日の時間の使い方が全然違うんだ、と思いましたね。みんなが電話で作家さんと打ち合わせしていたり、実際に出かけていくのを見送りながら、すごく羨ましく感じていた時期もありました。
江上:編集長になってから知った作家と、1回でも現場を一緒にやっている作家との距離感って全然違うんですよね。1回でも担当した作家は、ずいぶん会っていなくてもなんとなく“大丈夫”な感じがするんですよ。
岩間:編集長として作家さんに会いに行くときは、だいたい担当編集者と3人で会うんですけど、一通り話をしたタイミングで「もういいよ」って視線が担当からあったりして(笑)。それを見て僕は「じゃあこの辺でお先に失礼します」、って(笑)。
山内:あとは若い子に任せた、みたいな(笑)。
岩間:みんなそういうものかなって。自分が担当のときも同じように思っていたので。現場の空気を感じられるのは作家の担当編集者の醍醐味ではありますよね。江上さんはどうですか。
江上:僕はどの時代も1本は担当を持っていたかな。意識は『ビッグコミックスピリッツ』編集部に新人で入ったときからあまり変わっていないんです。
週刊誌だと組織も20人くらいいて、編集長がいて副編集長がいて、システムの中で決めていかないといけない部分もあるんですけど、結局は現場の編集者と編集長しかいない、というイメージをずっと持っています。自分がやりたいものがあるとき、最初はデスクや副編集長に相談するんだけど、最後に決めるのは編集長なので。結局は「編集長の判断」と「こちらが面白いものを持ってこられるか」という二つしかないと思うんです。編集長の判断がいいか悪いかはとももかく。この仕事って現場の編集者の裁量が広いし、そこが“強いな”と思っています。
[中編「編集長が担当作品を持つってことは、雑誌で一番面白くないと説得力がない(笑)。」に続きます]
構成:松井祐輔
(2015年8月18日、マンガサロン『トリガー』にて)
渋谷にあるマンガサロン『トリガー』にて、本連載「マンガは拡張する[対話編+]」の公開収録が行われます。第6回目となる公開収録、いったん最終回となる今回のテーマは、『「マンガ」は拡張するのか?』。
今回は講談社『モーニング』の元編集長にして、現在『ヤングマガジン』編集部の島田英二郎氏を登壇者として招きます。本シリーズの集大成として、マンガナイト代表・山内康裕氏とともに、「マンガ」は拡張するのか? マンガと業界のこれからはどうなっていくのか? について語ります。
※今回はゲスト参加者として、公開収録第1回(※本記事)〜第5回の過去の登壇者と懇親会でお会いできる機会もご用意しています。
参加費:5,000円(税込・ワンドリンク付き)
会場:マンガサロン『トリガー』(渋谷駅から徒歩5分)
【詳細・チケットご予約はこちら】
COMMENTSこの記事に対するコメント