2015年5月下旬に、ミシマ社から最初の3冊『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』、『透明の棋士』、『声に出して読みづらいロシア人』が同時刊行された「コーヒーと一冊」シリーズ。100ページ前後で気軽に持ち運べるコンパクトなブックデザインや、「6掛、買切」に絞った販売条件、新進の著者たちによる目を引くタイトル――その要素の一つ一つは、現在の出版流通や書店業界の行き詰まりに対する新たな一手として考え抜かれたものだったのです。この新シリーズに込められた志にいち早く反応したDOTLACE編集長・内沼晋太郎が、ミシマ社代表・三島邦弘さんを本屋B&Bに迎えて繰り広げられたトークをほぼノーカットでお届けします。
★この記事は2015年5月22日に本屋B&B(東京・下北沢)にて行われたイベント「これからの『本』の話 ~読者、作家、本屋、出版社の共存をめざして~」のレポートです。
★ミシマ社のウェブマガジン「みんなのミシマガジン」にて、このイベントのコンパクト版のレポートが公開中です。
「一冊入魂」の出版社
内沼晋太郎(以下、内沼):今日はお集まりいただきありがとうございます。今日はミシマ社の三島邦弘さんをお招きして、「これからの『本』の話」というテーマでお話をうかがいます。このイベントは今回、ミシマ社から刊行される「コーヒーと一冊」という新シリーズの創刊記念イベントでもあります。
三島邦弘(以下、三島):よろしくお願いします。
内沼:よろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をしましょう。僕は今日の会場である、本屋B&Bを運営しています、内沼晋太郎と申します。もともとはブックコーディネーターという肩書きで、洋服屋さんや雑貨屋さんに本の売り場を作ったり、出版流通会社の取次や、本屋さんと一緒に、売り場づくりのお手伝いをしてきました。それから2012年7月にこのB&Bという本屋を始めて、もうすぐ3年になります。B&Bでは毎日イベントをしています。土日は2本、時には3本やることもあって、実はオープン前の早朝には英会話教室もやっていて、そういう企画も全て合わせると年間で500~600本くらい何かやっていることになります。
三島:ミシマ社という出版社をやっています、三島邦弘です。ミシマ社は2006年10月に東京の自由が丘で創業しました。最初は僕1人でやっていたんですが、そのうち1人、2人と人数が増えていき、震災をきっかけに関西の方にもオフィスを作りました。もともとずっとメディアの東京一極集中にとらわれない活動をしたい、という思いがあって、最初は京都の城陽市にオフィスを構えました。今は京都市内に移転して活動しています。自由が丘のオフィスが5人、この5月に京都オフィスのメンバーも5人なって、やっとバランスが取れました。それぞれがそれぞれの道を歩もうかなと、そういう体制になってきたところです。基本的にこれまでは単行本を主に出版していて、創業から9年間で約60冊の本を発刊してきました。書店さんとは直取引で、取次を介さない形での営業スタイル。「一冊入魂」という言葉を掲げて、思いを込めて作った本を直接書店さんに届ける、という活動方針でこれまでやってきました。
内沼:実績がまさに「一冊入魂」という感じですよね。9年で60冊という点数は専業の出版社としては多くないですよね。
三島:最初、1人の頃はもっと少なかったので、実質は8年間で60冊くらいです。年間7~8冊くらいの刊行ペースでやってきたということですね。確かに、人数の割に刊行点数が非常に少ないですね。社員数と刊行点数で考えたら、年間で1人1冊のペースでしか本を出していない、ということになります。
内沼:それって、かなり贅沢なことですよね。
三島:そうなんです。僕、いろんな出版社の社員と刊行点数を数えたことがあるんですよ。ある日ふと、なんでこんなに毎日お金が減っていくんだろうって気なったことがありまして(笑)。それまで他社のことは気にしたことがなかったんですけど、調べてみたらだいたい社員数×3冊くらいが年間の刊行点数だということがわかりました。経営的な観点から言ったらそれくらいの数らしいんです。
内沼:じゃあ10人いる今のミシマ社は年間30冊は出していないといけない。
三島:そうなんですよ。ウチは文字通り「一冊入魂」で、年間1人1冊出して、その1冊で1人がなんとか生活していく、という。デットボールでもなんでも出塁するんだ、という感じで(笑)。それをずっと続けていて、最初の3年くらいはデットボールの痛みも我慢できるんですが、8年も続けていると……。
内沼:痛い(笑)。
三島:痛い(笑)。でも、そういう形で「一冊入魂」を続けています。
もう「本が重い」とは言わせない
――新シリーズ「コーヒーと一冊」が掲げた志
内沼:そういう中で今日は新シリーズ刊行記念のトークイベントなんですよね。
三島:冒頭で内沼さんにも言っていただきましたが、「コーヒーと一冊」というシリーズを始めます。これはミシマ社としては初のシリーズものになります。正確に言うと「22世紀を生きる」というシリーズが既にあるんですが、いわゆる同じような装丁で同じロゴを使って作っていくシリーズとしては「コーヒーと一冊」が初になります。これを始めるにあたって、毎日更新しているミシマ社のウェブサイト「みんなのミシマガジン」に、今年の2月22日にお知らせを出しました。そうしたら内沼さんがいち早く反応してくれて。
内沼:すぐに反応しましたね。「さすが!」というか「これだ!」と。見たときは興奮しましたよ。
三島:それがすごく嬉しくて。そのお知らせで書いたんですが、「コーヒーと一冊」は大きく3つの志を掲げたシリーズなんです。
内沼:1つずつ、見ていきましょう。
三島:まず1つ目。みなさん、この本を見てまずどう思われましたか。(会場側に「コーヒーと一冊」のうちの1冊『声に出して読みづらいロシア人』本の背を向けながら)……どうですか!
(会場:薄い、です。)
三島:ありがとうございます(笑)。そうなんです。すべて100ページ前後で作る、ということを考えました。このシリーズ、ぱっと見て薄いしコンパクトな印象を受けるじゃないですか。でもサイズ感は普通の単行本、四六版(128×188ミリメートル)と同じなんです。全く同じサイズなんですけど、これを100ページにしたとたん、新書サイズぐらいに思いませんでしたか。
内沼:本当だ。(四六版の本を重ね合わせながら)なんでなんですか?
三島:いや、それはわかりません(笑)。
内沼:意識しているわけじゃないんですか(笑)。
三島:はい。これ、スーツのポケットにも入りますよ。それに軽いです。iPhone片手に持ってみてください。iPhone6より軽いです。
内沼:(iPhoneと比べながら)確かに軽いです。
三島:断然軽いでしょ!
内沼:断然ってほどじゃ(笑)。でも確かに軽いです。
※編集部注:後日計ったところ、このとき三島さんが持っている『声に出して読みづらいロシア人』は114g、iPhone6はApple公式サイトによると128gと、確かに軽いです。ただし、同シリーズでもややページ数が多い『透明の棋士』は、残念ながら139gありました
三島:もう本が重い、とか絶対に言わせない。iPhoneより軽い。これはそこまでこだわったわけじゃないんですけど、結果的にそうなりました。今回はスマートフォンに奪われている時間をいかに取り戻すか、ということが大きな課題だったんです。
内沼:そもそもなぜ薄くしたいかというと、そういうことなんですね。
三島:僕自身、いまスマートフォンを持っています。かつてミシマ社は「パソコンオフタイム」と言って、みんなでパソコンを触らない時間を作っていたりして、日中にパソコンを触るのは仕事じゃないよ、という時代がつい最近まであったんです。でも僕もスマートフォンを持つようになって、気がついたら時間を奪われているんですよね。電車の中では必ず本を読んでいたのが、気づいたらけっこうな時間をスマートフォンに費やしていたりとか。まったく見る必要もないタイミング、たとえば寝る前に気づいたら見ていたとか。「それはアカン。アカンぞ、自分!」と思ったんです。そういうときに寝ころびながら読める、iPhoneより軽い本があったらいいな、と。
[2/8「1冊読むのに1日とか数時間かかることって、もう普通の時間感覚とは合っていないんですよね。」へ続きます]
構成:松井祐輔
(2015年5月22日、本屋B&Bにて)
COMMENTSこの記事に対するコメント